第4話 アビリティ設定

 ノートヘルムさんが出て行くと、入れ替わりに初老の執事さんが入って来る。パリッとした黒の執事服を着こなし、キビキビとした行動は年齢を感じさせないプロに見える。

 俺の居るベッド脇にスリッパを準備すると、跪いたまま気遣いの言葉を掛けてくれた。


「筆頭執事のエドムントにございます。もし、お身体に負担が無ければ、あちらのソファでお寛ぎ下さい」

「ありがとうございます……軽く動き回るには問題ないです」

「それでは、お茶を用意致します」


 ここで初めて身体全体を動かしたのだが、他人の身体とは思えない程馴染んでいる。思った通りに足が動き、装飾付きの高そうなスリッパを履く。

 指示された方向に少し歩き、ベッドの周りの衝立を越えると革張りの大きいソファが目に映った。

 見るからに高級そうなソファに、少し物怖じしながらも座ってみると予想以上にフカフカである。座面だけでなく肘置きや背もたれのクッション性が高くて良い。こんな高級品を知ったら駄目になりそうだ。

 周囲を見回してみても、高級そうな調度品ばかり。少しばかり恐れおののいていると、執事さんが飲み物を持ってきてくれた。音もなくテーブルに置かれたのは、明るい灰み掛かった茶色の液体……香りからして紅茶っぽい。


「ミルクティーです。お好みでこちらの砂糖をお入れください」

 

 そのまんま、紅茶だった。高級そうなティーカップの事は考えないよう、砂糖を少し入れて飲んでみる。鼻を抜ける紅茶の香りに、ミルクのコクがあるまろやかな味。

 ……うん、美味しいミルクティーだ。

 異世界と言うより、高級ホテルでお茶をしている気分になる。


「美味しい。落ち着く香りだ」

「ザクスノート様の好みのお茶なのです。お気に召して頂き幸いです」


 俺の言葉に、フッと執事さんの雰囲気が柔らかくなった気がする。

 しかし、喜んでくれるのは良いが、乗っ取ってしまっている俺としては微妙に居心地が悪い。話題を変えよう。ノートヘルムさんから、色々聞いても良いと許可を貰っているので、こちらの常識……先程から気になっていた事を質問する。


「ステータスの表示方法を教えてくれませんか。簡易ステータスと同じでしょうか?」


 俺が手を前に出して、呼び出そうとしたところ執事さんに止められた。


「いえ、ステータスは心の中で念じるだけで表示されます。声に出しても表示されますが、一般常識として他の人にステータスを表示したことがバレないようにして下さい。

 ステータスは他人には見えませんが、個人の重要書類を広げているようなものなので、周りに悟らせないのがマナーとなっております」


 俺は頷き、ステータス表示と念じてみる。すると、視界内に半透明のウィンドウが開いた。


【人族:転生者】【名称:ザックス、16歳】【基礎Lv1、無職Lv1】

HP  E □□□□□

MP  F □□□□□

筋力値E

耐久値F

知力値F

精神力F

敏捷値E

器用値F

幸運値C

アビリティポイント:30/30

取得スキル

 ・特殊アビリティ設定→



 ……おお~! 期待していた通りの画面だ!

 ゲームで見るようなステータスが表示された。幸運だけがやけに高い、幸運特化型か?

 ただ、詳細な数字は分からないのは残念である。

 HPのランクEの横にある□は体力ゲージだろうか?


「あの、HPは体力の事でしょうけど、横に並んでいる□は現在値ですか?」

「はい、その通りでございます。ただ、最大値は分かりませんので、目安にする程度だと思って下さい。他人と同程度の怪我を負ったとしても、HPの減り具合は人によって変わります。

 『自分のHPの減りは少ないから、他人も大丈夫』等と判断したとしても、実は他人とっては致命傷である場合もございます。先ずは外傷を見て、薬品や回復の奇跡を使うか判断すると良いでしょう」


 なるほど? HPのステータスとは別に耐久値なんてのもあるから、一概に判断出来ないのか。


「そしてMPの方は重要です。MPを使用すると精神が疲れる……頭が重くなりますが、それがMPの減少によるものなのか、他の要因……例えば書類仕事のし過ぎで頭が重いのか、判断が難しいです。

 その為、MPを多く使った場合は、こっそりステータスを表示して確認するのが一般的です」


 執事さんの話は分かり易い。こちらが一般常識を知らない前提で話して、例え話もしてくれるのは助かる。

 確かにMP管理のために何度もステータスを開くなら、周りの邪魔にならないように声に出さずに表示させるな。


「アビリティポイントと言うのは? スキルに特殊アビリティ設定があるので関係していると思うのですが」

「……どちらも聞いたことがありません。スキルはジョブのレベルを上げることで取得しますが、ザックス様はレベル1に戻ったと聞き及んでおります。基礎レベル1ならスキルは無い筈では?」


 ……つまり転生者の特典みたいなものか? わざわざ種族欄に転生者と記載するくらいだからなぁ。

 特殊アビリティ設定の項目を凝視すると、矢印が点灯して画面が切り替わった。


●特殊アビリティ設定一覧   ポイント30/30

・追加ジョブ(〇2次職5p、〇3次職10p、〇4次職15p、〇5次職20p)

・追加スキル(〇1枠1p、〇2枠3p、〇3枠6p、〇4枠10p、〇5枠15p)

・経験値増(〇2倍5p、〇3倍10p、〇4倍15p、〇5倍20p)

・パラメータ上昇1箇所5p~ →

・特殊スキル(□詳細鑑定5p、□ストレージ5p、□ゲート5p、□充填短縮5p、□無充填無詠唱10p、□MP自然回復量極大アップ10p)


・特殊武器(□ミスリルソード5p、□紅蓮剣10p、□プラズマランス15p、□聖剣クラウソラス20p、□聖剣 天之尾羽張25p)

・特殊防具(□癒しの盾5p、□ミスリルフルプレート10p、□ブラストナックル15p、□聖盾20p、□アキレウスの鎧25p)



 ……これは間違いなくチートと呼ばれる類のスキルだ。


 ジョブやスキル、経験値増は名前の通りっぽいな。〇にチェックを入れるとポイントが減る=アクティブになるようだ。ただし、2次職と3次職はどちらかしかチェックが入れられない。2次職と経験値2倍は両方チェック出来る。同一項目の〇は一つまでのようだ。


 □のチェックボックスの方も気になったため、特殊スキルに目を移すが、スキル名を見ても分からない物も多い。色々触ってみたところ、□のチェックボックスはポイントがあれば幾つでもチェック出来るようだ。もうちょっとスキルの詳細が欲しいので、〈詳細鑑定〉にチェックを入れてみる。


 2次職5p、経験値増2倍5p、詳細鑑定5pにチェックを入れたことで、ポイントは15/30に減っていた。

 ステータスを閉じ、目についた紅茶を見ながら〈詳細鑑定〉を使ってみる……心の中で念じるだけでは駄目なようだ。


「〈詳細鑑定〉!」



【食品】【名称:アッサム紅茶、ミルクティー】【レア度:D】

・世界中で広く飲まれている紅茶。味が濃いのでミルクティーが好まれる。

 アドラシャフト領内の村で栽培、加工された物。ミルクもアドラシャフト領内の牧場牛産。



 視界に、ステータスと似たような半透明なウィンドウが開いた。

 ……なんでアッサムなんだ? こちらの世界にも地名としてアッサムがあるのだろうか。


「執事さん、このミルクティーはアッサムの茶葉を使っているようだけど、アッサムと言う名の地域で栽培されているのですか?」

「いえ、アッサム紅茶は広い地域で栽培されているので、地名ではなく、品種でございます」


 ……何か微妙にズレているな。

 ついでに、ふと気が付いてしまった。ステータスも〈詳細鑑定〉の内容も、全て日本語で書かれている。もしかして……


「今話している言語の名称は何ですか?」

「ニホン語です。500以上前の統一国家でも使われていたそうです」


 ……日本語が公用語の異世界とか、頭がクラクラするわ。

 紅茶の名前に日本語。異世界でこんな偶然の一致があるわけがない。おそらく統一国家の王様も、日本からの転生者で、故郷の文化を広めたとかだろうか?


 まあ不都合があるわけでもないし、新しく言語を覚える必要がないので楽で良いのだが、釈然としないものを感じてしまった。

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