第8話Ver1.1 日本人の空気と欧米人の空気
「お・も・て・な・し」
この言葉でセクシー環境相の妻でいらっしゃる松川コンチータさんが2020年の帝都オリンピア開催を勝ち取ったのは確か地球歴2013年だったでしょうか。この頃は当然コロナウィルスなどもなく、秋葉薔薇や浅臭にでも繰り出せば多くの外国人観光客の姿が見えました。
この「おもてなし」の言葉は日本を旅行した欧米人には日本人のきめ細かなサービスを体現する言葉として特に実感として響いたのではないでしょうか。お客様の心情を察して先回りしてもてなす老舗温泉旅館のサービスに感銘を受けた外国人旅行客は少なくないと筆者は思います。
その他にもチップを払わずともかしずくレストランのウェイターとウェイトレス、ワンストップでたらい回しをしないサービスを売りにしたPCサポートコールセンター等々日本のサービス品質はとても良いため日本人は世界においても飛びぬけて空気を読む能力に長けた民族であると思われる方も少なくないのではないでしょうか。
ただ私は日本人だけが特別に空気を読むことに長けた民族だとは思いません。こう言うと「またまた欧米かぶれが気取りやがって」と思われるかもしれないので、何故であるか先に結論を申し上げますと、日本人と欧米人では空気読みの得手不得手が異なるからです。
具体的にどう異なるか、私の見解を端的に述べますと以下の通りです。
日本人:立場、状況、環境を基準にした判断に優れる
欧米人:対面している相手を基準にした判断に優れる
日本人は自分と話相手のどちらが目上であるか考えたり、その場その時の空間を見て判断をする能力に優れています。ここで旅館の女将を例えにして……と最初は思いましたが文章が説明臭くなるので別の例を持ってきました。
Switchや3DSのソフト「みんなで空気読み」をご存知でしょうか。ご存知でなければ是非とも先にYouTubeあたりでどんなゲームか見てみて下さい。このゲームではその場面に合わせて空気を読んだ行動ができるか? が問われていてそれらにクイズ形式だけでなくアクション感覚で答えられるゲームです。
プレイしたことがある方、もしくはプレイ動画をご覧になった方々は気付きましたでしょうか? この空気読みで出題されている問題、ことごとく一人の個人の感情、すなわち個人の空気を読む問題はほぼ無いのです。問題のほとんどはその場その時の状況を判断する問題で占められています。
この他旧DSであった常識力検定ソフトでも状況の問題はあれど、個人を対象とした行動判断の問題はほぼなかったと記憶しております。このソフトは明らかに日本人に向けて開発されたものなので、日本人の空気を読むという価値観に根差していると思います。どうでしょうか? あえて硬さを抜いた例えではありましたが、確かに状況環境ばかりを見ているのかもと感じて頂ければ幸いです。
では次に欧米人についてです。欧米人の話相手を基準とした空気読みの典型例として挙げられるのが恋愛だと私は思います。ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、欧米に告白して付き合うという文化はありません。なんとなくフィーリングが合う人とデートをしてみて、いい感じだと思ったらデートを重ねて気付いたら「俺達もう恋人同士だよね?」って感じです。
私自身白人女性と積極的に出会い始めた頃はこの習慣を知らずに「好きだぁ! 付き合って下さい!」みたいなことをやっていましたが、ひとたび以下のようにツッコまれた時は羞恥心で脳が沸騰しそうでした。
曰く「あなたは振りやすいから助かったけど、まるで決闘でも申し込まれそうな感じで言ってくる人もいるから困るわ」とのことで「サムライみたいな感じで引くってこと? 断ったら切腹されそうな感じ?」と言ったら「そうそう! そんな感じ!」とウケてくれたのを覚えています。ウケた! もう一回お願いしたらいけるかなと思ってもう一回デートのお願いをしてもダメでしたが……。
他にも恋愛絡みの例ですと恋人同士のふと「したくなった」時の表現です。なんだかリビングで二人でくつろいでいる時に「したいな……」と思ったその時、よく使われるのが「手のひらこちょこちょ」です。右手同士、あるいは左手同士で軽く手を繋いで人差し指や中指で相手の手のひらの部分をこちょこちょと触れます。これは「しない?」の合図です。OKだったらキスなり何なりが始まり、NOなら手を振り払われて終わりです。
「日本人同士ではどうしてんの?」と酒の席で聞かれた時に私は言葉に詰まり、結果としてYES、NO枕の話をしてウケに逃げました。
自分では結論に至れなかった私ですが、その後日本人男性との交際経験がある白人女性に聞いた話で答えに至ります。
「日本人の彼からのセックスの誘いは断りにくい。なんかしなきゃダメな感じがある」とのこと。日本人男性はムラムラするとさっきの手のひらこちょこちょみたいな合図無しに体に触れてくるか「やりたいでござる」と決闘を申し込んでくるから雰囲気に任せて求め合いづらいのだとか。もう耳が痛くて自分事じゃないのに「うちの息子が粗相をして申し訳ございません」と言って謝ってしまいました。ウケ狙いでしたが。とにかくこの女性からの意見が、私が「日本人って対個人の雰囲気作りや空気読みは苦手なんだな」と考えるきっかけになりました。
白人男性に傾倒する日本人女性がしきりに「白人男性は包容力があって良い」と言う理由も対個人の雰囲気作りや空気読みに欧米人男性が長けているからだと思います。欧米人男性の雰囲気作りの極意とはなんだかご存じでしょうか? 答えは簡単、笑顔です。
この当たり前と言えば当たり前な真理に私が気付いたのはあるイタリア人男性の友人とカフェで会話した後に渋谷のハーゲンダッツショップでアイスを買い食いしていた時のことです。
店前の歩道上でダッツを食べながら彼と会話していた時に、ふと隣で私達と同じようにダッツを食べながら会話をしていた日本人女性達と彼の目が会いました。その瞬間、彼が端正な顔立ちで「にっこり」とほほ笑んだのです。目が会った女性はもうその笑顔だけで顔を赤くして恥ずかしそうにしていました。見ていた私は思いましたよ。「こりゃモテて当然だ」と。
表情はこのイタリア人の様にコミュニケーションに良く作用するだけではありません。むしろ表情がコミュニケーションに悪く作用する場合もあります。欧米人が気持ち悪がる日本人の習慣を一つご紹介します。それは、誰にしているのか分からない挨拶です。
読者の皆様もブックオフや家電量販店等のチェーン店で数分置きに定期的に発せられる「いらっしゃいませこんにちは――。どうぞご利用くださいませ――」の声を聞いたことがあるはずです。
欧米では店舗では店員のみならず客も挨拶をするのですが、店員は目の前に挨拶の対象である客がいない限り挨拶しません。欧米人からは相手がいなくても等間隔で生気の抜けた挨拶を繰り返す日本人の姿がとても滑稽に見えるようで、イギリス人男性の友人は「挨拶はしているが、やらされている感じで表情が無い。ここはアウシュビッツかな」と皮肉を込めて言っていました。きっと挨拶をコミュニケーションのために自発的に行うマナーと捉えている欧米人にとって、義務化された上にコミュニケーション相手さえいない挨拶は存在意義を欠いて見えたのだろうと感じました。
と、ここまで長々と創作論というよりは感想文に近い内容を綴ってしまいましたので、最後に創作にどう活かすかをまとめようと思います。
・日本人キャラクターは状況や環境、立場を把握したコミュニケーションに優れた描写をする
・欧米人キャラクターは個人対個人のコミュニケーションに優れた描写をする
具体的な会話に活かす例を挙げるならば、周りのみんなからどう思われるか気にする日本人主人公と、「あなた自身は何をしたいの?」と問い詰める金髪碧眼ヒロインと言ったところでしょうか。
よく欧米人女性は気が強いなどと言われますが私はそうは思いません。彼女達はただあなたが何を考えて何をしたいのか明確に知ろうとして、自分の考えも明確に伝えようとしているだけなのです。それが個人対個人のコミュニケーションを重視する彼らの文化だから。
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