210話「関係者に事情説明」
「王都よ。私は帰ってきた!!」
何の脈絡もない叫びだが、状況的には合っている気がするので気にしないことにする。
サーラたちのいた部屋から、瞬間移動で人間界の王都の屋敷に戻ってきた俺は、そんな小ボケをかますくらいには余裕があった。
人間界を離れていた期間は半月にも満たないが、どことなく懐かしいと思ってしまう。そんな感情を抱かせるくらいには、俺にとってこの場所が特別な場所になりつつあるのだろうかと感慨に耽る。
当然、そんな叫び声を上げて屋敷の人間が誰も気付かないはずもなく、騒ぎを聞きつけてきた使用人たちが集まってくる。
「ローランド様!」
「どこに行ってらしたのですか!」
「心配しましたよ」
そんな使用人たちの声を聞きながら、今後のことを話す算段を頭の中で練っていると、そこにソバスが現れる。何故かは知らんが、片膝を付いて俺に平伏している。
「ローランド様、よくぞご無事で」
「大袈裟だな。まあ、とりあえずは生きて戻ったぞ」
「何があったのか、聞かせていただけますでしょうか?」
「その前に、お前たちに大仕事を頼むことになりそうなんだ。食堂に全員集めてくれ」
俺の言葉にその場にいた使用人たちが目を輝かせる。使用人として屋敷の管理ばかりを任せてはいるが、彼らの中には元貴族家の使用人だったという肩書を持つ者もいる。
俺のところにやってくる客はかなり少なく、ほとんどが屋敷のことばかりなのと、俺が彼らに何か仕事を頼むということをしてこなかったがために、彼らの仕事に対するモチベーションを維持させてやれなかったのかもしれない。
そんな状況の中で俺が珍しく「仕事を頼みたい」と言ってきたのだ。これでやる気にならない使用人はいないだろう。
「畏まりました。すぐに集めます」
ソバスも心なしかやる気に満ちており、珍しく足早に去って行った。どんだけ仕事に飢えていたのやら……。
しばらくして食堂に使用人全員が集められた。俺の無事を知った者は、泣いて喜ぶ者もいて少々むずがゆかったが、今は再会を喜んでいる場合ではないため、本題に入ることにする。
「喜んでいるところ悪いが、お前たちに一つ大きな仕事を頼みたい」
「先ほども仰っていましたが、どのような内容でしょうか?」
「実は、内容は詳しく言えないが、とある一国の二人の姫君を俺の屋敷で預かることになった。少々きな臭いことになっていてな。そのほとぼりが冷めるまで、うちで匿うつもりだ。もちろん先方にはお付きの侍女もやってくるが、諸君らには彼女たちの世話を頼みたい。やってくれるな?」
「っ!? ああ、私はこのお方に仕えられて幸せです!! 神よ。この方に巡り合えたことに感謝を!!」
俺が説明すると、ソバスは膝を地に付けながら両手を祈るような形に組み、意味不明なことを天に向かって叫んでいる。他の使用人たちも、一国の王族の世話をするという突如舞い込んできた大仕事に興奮しているようだ。
「一つ言い忘れたことがある。その一国というのは魔族の国で、当然その姫は魔王の娘ということになるが大丈夫か?」
「……」
名誉ある仕事を頼まれたということで、沸き立っていた使用人たちが一様にして静まり返る。それも無理もない話かもしれない。
人間にとって魔族という存在は、過去に人間を支配しようと攻め込んできた敵であり、畏怖の対象として恐れられてもいる。その魔族の頂点である魔王の娘がやってくるとあっては、並の人間であれば逃げ出したくなっても仕方がない。
「安心しろ。あいつらはお前たちが思っているような魔族ではない。何かあれば、俺が奴らを皆殺しにするしな……ふふふふ」
「なんでしょう。今は魔族よりもローランド様の方が恐ろしいのですが……」
どうやら、畏怖の対象を魔族から俺に塗り替えることに成功したようだ。わざとやったつもりではないのだが、世の中一般的に恐ろしいと言われているものほど、その実大したことはなかったりする。
「とりあえずの話はそんなところだ。俺はこれから国王にも同じ話をしてくる。彼女たちを受け入れる準備を頼んだ」
「畏まりました」
とりあえず、使用人たちに説明が終ったところで、国王たちにも今回の事情を説明しなければならないため、俺はそのまま国王の執務室に瞬間移動する。
「よう」
「むっ! 無事だったか!! 急にいなくなったと報告を受けていたが、なにをしていた?」
国王の元を訪ねると、開口一番そんなことを言ってくる。どうやら、思っていたよりも国王は俺のことを心配してくれていたようだ。
挨拶もそこそこに今回の件について説明しようとしたが、国王だけだと後で説明が面倒だということに気付き、この際宰相のバラセトと近衛騎士団長のハンニバルも呼ぶことにしよう。
「その前に、悪い知らせがある。ちょっと内容が内容だけに俺たちだけでどうこうという話ではないから、宰相とハンニバルを呼んでおいた方がいい」
「……それほどか。わかった。誰かいるか!」
「はっ、こちらに」
「宰相バラセトと近衛騎士団長ハンニバルを呼んで来い! 大至急だ」
「御意」
国王の命を受け、扉の外を守っていた近衛騎士がすぐに動き出す。ちなみに、俺の方をちらりと見てきたが、何事もなかったかのように部屋を出ていった。おそらくは、通した覚えがないのに俺がいたことを気にしているのだろう。
しばらくして、バラセトとハンニバルがやってきたが、彼らもまた俺の帰還を喜んでくれた。彼らとのやり取りもそこそこに、俺は今回の事情を説明する。
「実はかくかくしかじかどってんばるばるでな。そういうことになった」
「「いや、わからないから!!」」
「なんですって師匠!? 魔族が再び攻め込んでくる可能性があって、その争いを止めるためにしばらく魔王の娘たちを預かることになったですとっ!?」
「「「そして、何でお前は理解できてるんだ!?」」」
こちらとしても場を和ませるために冗談で言ったつもりだったのだが、なぜかハンニバルだけはそれだけで伝わったようで、事情をすべて理解した。その対応力に、国王と宰相の二人と同じく俺までもが突っ込みを入れるという事態にまで発展した。
そんなこんなで、改めて二人にもわかりやすく説明をし、今魔界が切迫した状況にあるということを理解する。
「まさか、魔族の支配する領域でそのようなことが起こっていようとは……」
「さっそく、主要な貴族たちを集めて対策会議を開きます」
「こちらも、魔族が攻めてきた時のために軍備を整えておかなくては」
俺の説明に国王、バラセト、ハンニバルがそれぞれの反応を見せる。まだ魔族が攻めてくると決まったわけではないが、だからといって楽観的に考えていては万が一の事態に対処できない。そのことを理解している三人はさすがと言える。
「とりあえず、魔族が攻めてくるかもしれないことは理解したが、それとお前が魔王の娘を預かることに結び付かないんだが?」
「まあ、いろいろあってな。端的に言えば成り行きというやつだ」
自分の問い掛けに要領を得ない返答が不満だったのか、国王が怪訝な表情を浮かべている。だってしょうがないじゃないか、あの状況を成り行きと言わずしてなんと言う?
モンスターに襲われていた少女を助けて魔王都に送り届けたら、その少女が魔王の娘の第三王女で、第二王女の策略をなんとかしてくれと頼まれるという状況になる状態を“成り行き”という言葉以外でどうやって第三者に伝えるというのだろう。そこのところを国王に問い詰めてやりたい。
とにかく、魔族がまた攻めてくるかもしれないということと、今回の一件が魔王主体の侵略ではなく、第二王女の独断で行われていること、そしてほとぼりが冷めるまで俺の屋敷で二人の姫を預かるということを三人に説明した。
にわかには信じがたい突拍子もない話だが、話している相手が俺ということもあって、三人ともすんなりと信じてはくれた。
「とにかくだ。俺はこれから一度魔界に戻って二人を連れてくる。国王たちは特に何もする必要はないから、魔族が来た時のために備えておいて欲しい」
「わかった。お前に任せよう」
国王たちの説明も終わったので、一言挨拶をしてから、俺は瞬間移動でその場を後にする。一度屋敷に戻ると、慌ただしく準備をする使用人たちがいた。
「ソバス。準備はどうだ?」
「ひとまずは迎え入れる準備は整っております」
「じゃあ今から二人を連れてくるが、問題ないな」
「少々お待ちください。出迎えの準備のため、使用人たちを集めますので」
それから、数分して使用人たちが全員集まった。それを見計らい、俺は瞬間移動で魔界へと戻った。
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