137話「マルベルト家からの引き払いと諸々の確認」



 ~ Side ナタリー ~



 ご主人様に恩返ししたいです。




 ~ Side ウルル ~



 強いご主人の子供が欲しいわふ!




 ~ Side イーシャ ~



 ローランド君? 感謝しているけど、まだ子供ですからね。




 ~ Side モリー ~



 オーナーの商人としての技術を学びたいです。




 ~ Side レチカ ~



 オーナーはすごい人です。




 ~ Side その他の女性たち ~



 ローランドきゅん可愛い~







「うわあ! はあ、はあ、はあ、はあ」



 マルベルト領の領民たちを治療した翌日、妙な夢を見た気がして思わず飛び起きてしまう。あれから治療が終わったので、そのまま王都へ戻ろうと思ったのだが、家族に引き留められてしまいもう一晩だけ泊ることにしたのだ。



 俺が使っていた部屋のベッドで眠りに就いたのだが、どうやら前日魔力を少々使い過ぎてしまったせいなのかはわからないが、夢見が凄く悪かったのである。



 とにかく、顔を洗って朝食を食べた後、ようやくマルベルト家を出ることになったのだが、父ランドールはまだ病み上がりということで見送りには顔を出さなかったが、他の三人や体調が良くなった使用人たちは見送ってくれた。



「ロラン、あなたの家はここなんですから、いつでも帰ってきていいのですよ」


「ありがとうございます母上。マークのこともありますので、たまに様子を見に来ることにします」


「ロランお兄さま、本当に行かれるのですか?」


「すまないローラ。俺にはやるべきことがあるのだ」


「兄さま、いつでも帰ってきてください。兄さまが戻って来るのを楽しみにしています」



 それぞれの思いを聞き届けた俺は、使用人たちからも別れを惜しまれた。どうしてそうなったかというと、マークが俺がマルベルト家から追い出された後で使用人たちに真実を話してしまったからだ。



 俺がマルベルト家を追い出すために工作を行ったことや、今までの素行の悪さも演技だということも話したが、最初は誰一人として信じなかった。



 しかし、今回マルベルト家の危機にやってきた俺を見て、マークの言っていたことが真実だったと考えを改めた使用人が多かったのだ。



 特に長年に渡って俺の世話係を務めていたターニャは、俺に平伏し俺の真意に気付かなかったことを心の底から謝罪していた。その勢いは凄まじく、自らの命をもって償うといい近くに置いてあった果物ナイフで自分の首筋を切って自決しようとしたのだ。



 もちろん、ナイフは俺が全力で奪い取ったので事なきを得たが、止めていなかったら確実に自ら命を絶っていたことだろう。



「ロラン坊ちゃま、もう一度私に償いの機会をお与えくださいませんか?」


「そんな必要はない。お前の今までの俺に対する態度は俺がそう仕向けたものだ。寧ろ見事に策略に嵌ってくれて感謝しているほどだ」


「ですが……」



 自分が最も近い立ち位置で俺を見ていたにも関わらず、俺の本心に気付かなかったことが悔しいのだろう。前掛けを強く握りしめながら悔しそうな表情をターニャが浮かべる。



 そんな彼女の真っすぐなまでの態度に、感心した俺は彼女にある頼みごとをすることにした。



「ならばこうしよう。本当に俺に申し訳ないと思うのなら、マークがマルベルトの領地を継いで当主になったら、使用人として支えてやってほしいんだ。ターニャがマークを見ていてくれると、俺も安心できるんだが?」


「は、はいっ! 私で良ければ、喜んでやらせていただきます!!」



 俺の頼みに強く頷いてくれたターニャに俺は満足気に頷いてやる。他の使用人たちも、ターニャと同じようにこれからも誠心誠意マルベルト家に仕えると言ってくれたので、これでマークが当主になっても大丈夫だろう。



「よし、じゃあまたな」



 マルベルト家の危機も去り、やることがなくなったため見送りに来てくれた全員に別れの挨拶を言って屋敷をあとにした。



 見送りに来てくれた人たちから見えなくなると、すぐに瞬間移動を使ってオラルガンドの自宅へと戻った。



「ただいま、何も変わったことはなかったか?」


「ムー」



 自宅に戻ると、すぐに職人ゴーレムたちが稼働している工房へと赴き、何か問題が発生していないか確認する。実を言えば、工房の確認はちょくちょく時間を見つけて瞬間移動で戻ってきてはいたのだが、ちゃんとした確認はしていなかったのだ。



 どうやら、特に変わった様子はなく、俺が王都に出立する前と変わらずに働き続ける職人ゴーレムの姿がそこにあった。



 俺がいなくても工房が稼働するように、王都に出発する前に空気中の魔力を吸い取って貯め込むシステムを構築していたことが功を奏したらしい。



 自宅の方も問題なかったので、そのままグレッグ商会へと向かった。



「これは坊っちゃん、もう王都から帰ってきたんですか?」



 グレッグ商会へと行くとグレッグが驚いた様子で迎え入れてくれた。まだ王都を旅立って半月も経過していないのだ。不思議に思っても無理はない。



「それよりも、在庫の確認だ。状況はどうなっている?」


「少々心もとなくなってますね。ぬいぐるみについてはグレッグ商会でも生産を始めてますが、売れ行きが凄すぎて手が足りていません。他の商品についても在庫が厳しい状態です」


「わかった。とりあえず、またしばらく出掛けるから木工人形以外の商品は多めに納品しておく」


「助かります。それと、坊っちゃんがいない間グレッグ商会の繁盛を聞きつけて雇ってほしいと願い出る者が多数出ておりますが、どうしましょうか?」



 今やグレッグ商会もオラルガンドで有名な商会として名が知れ渡り始めており、働きたいと望む者が出てくるのも無理はない。だが、奴隷以外の雇用は余程信用のおける相手でなければ裏切られる可能性が高いため、人材を補充したいのであれば奴隷を買えと指示しておいた。



 それから、木工人形のことを知った木工職人の何人かがグレッグ商会を訪ねてきたらしく、木工人形を作った人間と話がしたいと言ってきたらしいので、折を見て会うことにした。



 商品の補充も済んだので、一度王都に戻り孤児院の様子も見て回る。こちらも特に変わった様子はなかったので、引き続きレリアンヌとイーシャの二人に任せておいた。



「さて、これで時間に余裕ができたから、あれを作ってみるとしよう」



 そう呟きながら、俺は王都の屋敷へ戻ってあるものを作るため、一人で住むには無駄に豪華過ぎる使用人付きの屋敷へ戻った。


 

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