閑話「前世から持ち越した恋愛運のツケを清算する時が来たその2」



 ~Side ファーレン ~



「ふぅー、やっと着きました」



 十日という長い道のりを経て、ようやく私たちは王都へたどり着きました。その目的は、とある一人の冒険者ですわ。名前はローランドと言って、見た目は何処にでもいる普通の少年ですが、どこか気品のある雰囲気を兼ね備えた不思議な少年です。



 彼と初めてお会いしたのは、私が盗賊に襲われている時でした。護衛の人数よりも盗賊の人数が多く多勢に無勢な状況に私も死を覚悟致しました。ですが、最悪の結末になるかに思われたその時、彼が現れたのです。



 彼が魔法で支援してくれたお陰で、盗賊たちを撃退することに成功しました。私は馬車の中にずっといましたが、私自身の持つ能力【千里眼】の能力によってその一部始終を目撃していたのです。



 護衛の騎士たちに盗賊が討ち取られてのを見届けた彼が、気付かれないように立ち去ろうとするのが見えたので、私のもう一つの能力【念話】を使ってお礼がしたい旨を伝えましたが、断られてしまいました。



 命を助けられたのにも関わらず何のお礼もしないのは、貴族の一員として何よりも人として恥ずべき行為です。ですので何とか引き留めようとしたのですが、私から逃げるように去って行ってしまいました。



 それから彼とは迷宮都市オラルガンドで再会を果たすのですが、私がお礼をしたいと言っても「必要ない」の一言で済まされてしまいました。



 それ以降何とか彼にお礼ができないものかと考えている時間が長くなり、気付けば彼のことばかり考えるようになったのです。そして、彼のことを考えると何故だか胸の鼓動が早くなるのことに気付いてしまいました。



 そんなある日、オラルガンドに魔族が襲来するという未曾有の危機が起こってしまったのです。人々が恐怖し絶望する中、魔族はたった一人の冒険者の手によって撃退されました。その冒険者こそ彼だったのです。



 その功績を認められ、王都に行くことになった彼を案内しようとしたのですが、そこで彼の知り合いの冒険者も案内に名乗り出たのですが、そこで危険な女がいました。あれはいずれ私の障害となり得る女だと直感的に感じました。



 そんなことをしていると、いつの間にか彼が王都に向けて旅立ってしまったではありませんか、これは追い掛けねばならないのですが、道中は危険な旅路となるためすぐには出発できません。



 そこで私はあの女が所属している冒険者パーティーに護衛依頼を出しました。聞くところによると、彼らはAランク冒険者ということで実力的には申し分ありません。彼らもローランド様を追って王都に向かうつもりだったらしいので、ちょうどいいということで私の依頼を受けてくれました。



 王都へ向かう道中例の女の情報を引き出し、彼女が彼の弟子だということを知りました。いろいろと話を聞いてみると、やはり侮れない女だということが重々に理解できました。



 そんなこんなでようやく王都に辿り着き、あの方に会うためやってきたという訳です。



「待っていてください。今あなたのお側に……」



 そんな決意が口から零れ落ち、恥ずかしくなってしまいました。ですが、他の女性に先を越されないよう今は頑張るだけだと、私は歩き出しました。






 ~ Side クッコ・ロリエール ~



 私はクッコ・ロリエール。栄光あるローゼンベルク公爵家に仕える騎士だ。



 私の役目は、ローゼンベルク家の令嬢であられるファーレン様の身辺警護をすることであり、ファーレン様に害を為そうとする者から守ることだ。



 貴族令嬢は、甘やかされて育てられることは珍しくないため、わがままで自分勝手な性格になる傾向が強いとよく聞くが、ファーレン様は決してそのようなことはない。



 何事も謙虚で真面目であり、見目も麗しくいずれ多くの男を魅了することは間違いない。そのためにももっとあの方の身辺警護にも身を入れなければなるまい。



 そんな折、オラルガンドに向かっている道中盗賊が襲ってきた。数の力にものを言わせて襲ってこられては、いくら鍛えられた騎士と言えども多勢に無勢だ。このままでは数に押し切られると考えていたその時、突如周囲に霧が立ち込めたのだ。



 それに動揺した盗賊たちを一人ずつ始末していき、なんとかなったがあの霧の正体は一体何だっただろうか。その疑問はファーレン様のお言葉によってすぐ解決する。なんでも、突然やってきた冒険者の魔法だったようで、自分たちはその冒険者に助けられたらしい。



 オラルガンドに到着してすぐにその冒険者と出会ったのだが、これが礼儀を弁えない無礼者だった。名前はローランドというらしく、まだ成人していない少年だ。本当にこんな奴に命を救われたのかと目を覆いたくなる気持ちだったが、その冒険者の言動に憤った私は奴に決闘を仕掛けた。



 結果は見るも無残な惨敗だ。この私が負けることがあろうとは思いもよらず、最初はその事実を受け入れられなかったが、今では負けて当然だったと納得できる。



 最初に出会った印象が悪すぎたため、最初の頃は思い出すだけでも腹を立てていたが、あの少年の圧倒的な実力に魅せられている自分がいることに気付き始めた。



 あの年で一体どれだけの訓練を積めばあの実力を手に入れられるのか、どうやったらあの強さにまで近づけるのか、私の頭の中はあの少年ローランドのことで次第に一杯になっていった。



 気付けば、どうやら私はあの少年に異性としての魅力を見いだしてしまったようで、あの少年のことを考えると胸の鼓動が早くなり息苦しくなってしまう。だが、不思議とそれが心地良くて、夜にベッドで少年のことを考えながら事を為してしまったのはここだけの話だ。



 だが、どうやらファーレン様も私と同じ思いを抱いているようで、気付けば少年の名を呟きながら憂いに満ちた目をしておられた。



 彼女の護衛騎士として思い人との恋路を応援して差し上げたい思いと、同じ男性を好いている女性として彼女の恋を素直に応援できない葛藤が私の中で板挟みとなって押し寄せていた。



 そんな中、突如魔族の襲撃があり、オラルガンドが危機に瀕したがその事態を収めたのはたった一人の冒険者だった。それが件の少年ローランドと知った時には、驚きよりも先に嬉しさが込み上げてきたのだ。



 私が好いた男はそれほどの人物であったかという戦いに身を置く者として、そして何より女として思い人が多大な功績を挙げたことがまるで自分が手柄をあげたことのように嬉しかった。



 そして、その功績が認められ少年が王都に呼ばれたと聞いてファーレン様は王都までの道案内を買って出ようとしたのだが、少年の知り合いの冒険者も同じように名乗り出てきたのである。



 その中の一人にいけ好かない女冒険者がいたのだが、あれは間違いなく少年に対して並々ならぬ思いを持った顔をしていた。彼女と目が合った瞬間私も彼女もこう思ったことだろう“こいつは、敵だ”と。



 そんなこんなで争っていると、いつの間にか少年は王都へ向かってしまった。当然追いかけることになっただが、私一人だけでは以前のように数の暴力で攻められればひとたまりもない。聞けばあの女が所属する冒険者パーティーはAランクらしいということで、ファーレン様は王都までの護衛依頼を彼らに出すことにした。



 そして、道中あの女を探ったのだが、やはりあいつは敵であった。言動の節々に少年とよからぬことをしようという企みが含まれており、同性の私でも引いてしまうほどだ。



 こいつは要注意人物として、今後も監視しなければならないと結論付け、十日後ようやく王都へと到着した。



 また少年と会えることにわくわくしながらも、あの女が少年に余計な真似をしないよう見張っておかなければならない仕事が増えたことに私は内心でため息を吐いた。






 ~ Side メイリーン ~



 私はメイリーン。現在はAランクの冒険者として、現役で活動している一流の冒険者だ。

 そう思って今まで冒険者をやっていたのだけれど、先生に出会ってその自信はものの見事に打ち砕かれてしまった。



 先生との出会いは、街の近くにオークジェネラルが率いる群れが出たと一人の冒険者が寄こした情報を確認するため、その調査依頼を受けた時の顔合わせが初めてだった。



 最初はちょっと可愛らしい男の子だなというだけであったが、本当に先生の情報が正しいのかどうかということをパーティーの全員が疑っていた。



 そして、今となっては愚かなことだとあの時の私を張り倒してやりたくなるんだけど、私たちは先生の実力を確かめるため先生と模擬戦をやったのだ。



 結果は手も足も出ず惨敗し無様な醜態を晒すことになった。だが、それと同時にこの少年の圧倒的な強さがどこからくるのか知りたくなった。



 たまらず私たちは先生に弟子入りを志願した。最初は断られたが、私たちに何が足りないのか教えてくれると言ってくれたので、その瞬間から私たちは弟子入りが許されたと思うことにした。



 それから、弟子にしてくれたお礼として体で支払おうとしたら“そんなものはいらん”と突っぱねられてしまった。これでも、体つきには多少なりとも自信があって私の体をいやらしく見てくる男は少なくなかったのに、先生は眉一つ動かさなかった。



 女性としてのプライドに傷つきながらも、先生を篭絡してやるという野望が芽生えてしまい。いつの間にか猛烈にアプローチを掛けてしまっている自分に気付いた。


 

 弟子として冒険者として、そして一人の女として私の中での先生という存在はなくてはならない存在へと変わっていった。



 あの可愛らしい横顔を見る度に、何度欲望のままに襲い掛かろうと考えたことか。だけど、不思議と軽くあしらわれる光景が頭に浮かび、まるで手に取りたくても触ることができない雲のようだと思ってしまった。



 それでも、私は諦めず先生に物理的に突撃していったが、やっぱり尽くいなされてしまう。私はこんなに先生のことを愛しているのに……。



 もう先生で何度ベッドを汚したかわからないほど慰み事の回数が次第に増えていき、それが原因なのか気付けば胸の方もさらに大きく成長してしまった。



 胸は揉まれると大きくなると言われてるけど、私の胸が大きくなったのは頭の中で何度も先生に揉まれる想像をしていたからかもしれない。



 そして、ついに先生は魔族を撃退するという人類史上でも稀に見ない功績を上げ、一つの街の英雄から国の英雄へと出世を果たした。



 その功績を称えるため王都に呼ばれた先生と一緒に王都まで同行しようとしたのだが、同じ目的を持った公爵家の令嬢とその護衛の女騎士がやってきた。



 二人を見た瞬間私は本能的に察した。“こいつらはいずれ私の邪魔になる女だ”と。できれば、今すぐにでも氷漬けにしてやりたいところだが、相手は貴族の中でも最上位に位置する公爵家の令嬢だ。下手に手を出せば、国中のお尋ね者になり兼ねない。



 だから、邪魔者を排除するよりも先に先生の心を射止めることを優先することにした。どうやら、先生はまだ子供だから女の体に興味はないけど、いずれそういったことにも必ず興味が出てくるはずだ。その時は私のこのデカいおっぱいでイチコロにしてやるつもりだ。ふふふ……。



 それから公爵家の連中と揉めていると、いつの間にか先生がいなくなってしまっていた。おそらく私たちを置いて王都へ向かってしまったのだろう。



 すぐに追いかけようとしたが、公爵家の令嬢が私たちを王都までの護衛として雇いたいと言ってきたのだ。断りたかったが、貴族の依頼を断るとあとでどんな嫌がらせをされるかわかったものではない。それを恐れ、私たちは彼女の依頼を渋々だが受けることにした。



 王都までの道中敵情視察として、彼女とその護衛の女騎士を探ってみたが、やはりあの女どもは先生にほの字らしい。同じ先生にほの字な私が言うのだから間違いない。



 だが、いくら貴族の令嬢だからといってそう簡単に引くわけにはいかない。いずれ彼女らとは戦闘以外で戦うことになるかもしれない。



 そんなことを考えながら護衛任務をこなし、ようやく王都へとたどり着いた。



「先生、今会いに行きます」



 あの太々しくも可愛らしい顔を思い浮かべながら、私はかさついた唇を潤すように舌なめずりをし、件の獲物をどう手に入れるか思案に更けるのだった。

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