134話「ネオポジティブキャンペーン ~ 流行り病から村人を救え ~」



「というわけですじゃ」


「なるほどな……」



 ローグ村の村長から詳しい話を聞くと、ことの顛末は今から七日ほど前にまで遡るらしい。



 急に謎の熱病にうなされ始めた村人が続出したと思ったら、それが瞬く間にマルベルト領全域に広がってしまい。今では病に侵されていない人間も、流行り病を恐れて外にすら出てこない状況となっていた。



「……どうやら、お前もその病に侵されているようだな」


「なんですと!? ロラン様は鑑定をお持ちなのですか?」


「まあ、似たようなものを持っているな」



 俺は村長の問いに軽く答えながら、詳細を調べていく。先ほど倒れていた村人の娘を解析した時に出ていたものと同じ【ルトヒー病】という病に感染しているらしい。



 どうやら、先ほどの娘から病原菌をもらってしまったらしく、発症まで一日と数時間という表記まで表示されていた。ちなみに、ルトヒー病の詳しい詳細は以下の通りだ。





【ルトヒー病】:熱を伴った激しい症状が特徴的な病。主な感染経路は、咳などで発せられた飛沫や呼気に含まれる病原体を含んだ魔素によって感染者から病原をもらう飛沫感染並びに空気感染である。





 前世でもこのようなタイプのウイルス病が何度も蔓延していたが、どうやらこちらの世界でもその例に漏れず、その猛威を振るっているらしい。幸いまだ感染したばかりであるため軽い回復魔法でどうとでもなるレベルだが、さっきの娘のように症状が進行してしまうと、治療するのにも高位の回復魔法を必要とするため、手遅れになってしまう可能性が高くなる。



「【キュアメディスン】」


「こ、これは……」



 未知のウイルス病ほど恐ろしいものはないが、俺にとってはただの小さな羽虫と何ら変わらない程度のものでしかないため、魔法一つでお茶の子さいさいだ。理由はわからないが、回復魔法はかなりランクの高いスキルらしく、スキルそのものは発現せず光魔法や水魔法の応用を使っていたのだが、それでもかなり強力な能力となっていた。いつか、スキルとして発現してくれることを願っている。



 ということで、さっさと村長の病気を光属性の魔法で治癒し、症状が発症する前に完治させた。それを見た村長が目を見開き驚いていたが、そんなことを気にすることなく俺は村長に病人のいる場所に案内させる。



「こちらでございます」


「……多いな。面倒だ【ハイエリアキュアメディスン】!」



 案内されたのは、広場に簡易的な天幕を張ったような場所で、そこにゴザのようなものを敷いた上に病人たちが寝かされていた。そのほとんどの者が熱病にうなされ、生死の境を彷徨っている危険な状態だった。



 しかしながら、俺にとってはそれほど大した病気ではないため、一人一人見て回る手間を省くために広範囲に作用する病気を治す魔法を展開させる。青白い魔法陣が発動し、病人の体から病の元となっている病原菌を死滅させる。



 瞬く間に治療が完了してしまい、急に体の辛さが無くなった村人たちが何事かと騒めき始めたが、村長の一言でその病が治ったことが宣言される。



「此度の病を治してくださったのは、ここにおられるロラン様じゃ。皆、ロラン様に感謝するように」



 村長の言葉に驚愕の表情を浮かべたり、顔を引きつらせる者が多くいた。それだけ、俺のやってきたことが酷いものであったことを如実に物語っていた。村長が大きな声で村人に感謝の言葉を言わせようとしているのを制止させ、俺は村人たちに語り掛けた。



「村人たちよ。この中にいる者の中には、俺に虐げられてきた者もいるだろう。だから、感謝の言葉は口にしなくても構わない。今回は俺が過去にやったことに対する詫びだと思ってくれればいい。それに、俺がこの地に再び戻ってきたのは、何もお前たちを助けるためじゃないしな。じゃあ、邪魔したな」


「ま、待ってくれ!!」



 そう言うと、俺が踵を返してマルベルト家の屋敷に向かおうとしたその時、先ほど出会った娘を抱えていた村人がいた。村人は俺に勢いよく頭を下げ、感謝の言葉を口にする



「ありがとうございます! あなたがいなければ、ここにいる娘は助かりませんでした。あなたが過去にどんなことをしていようと、俺は今のあなたに感謝しています。本当にありがとうございました」



 男が俺に頭を下げたことを皮切りに徐々に頭を下げる者が出始め、最終的には全員が俺に頭を下げる結果となった。そして、俺の前に踊り出た村長までもが頭を下げ、全員が俺に平伏するような形となった。



「とりあえず、これで死にはしないだろう。俺は屋敷に行く」


「ロラン様、此度のこと重ねて感謝いたします」


「気にするな。これも、俺が過去に犯した罪に対する罪滅ぼしなのだからな」



 そう一言だけ告げ、俺は久しぶりのマルベルト家の屋敷へと向かった。



 屋敷の門に向かうと、門の前でそわそわとした様子の見知った顔が目に入ってくる。数か月という短期間だが、それでも久しぶりに見る弟は以前と比べて逞しくなっている気がする。



 俺の姿を見つけたマークは、どんな女性でもいともたやすく落としてしまいそうなほどまぶしい笑顔を浮かべながら、まるで飼っていたペットの犬がご主人様の帰りを待ちわびていたかのような姿とだぶついてしまうほどに喜んでいた。



「おかえりなさいませ兄さま! 会いたかったです!!」


「そういうのは、いずれお前の妻となる女にでも言うことだな。俺に言ったところで、俺の心を奪うことなどできはしないぞ? 兄より優れた弟など、いはしないのだからな」


「兄さま……」



 俺の言葉に、頬を赤く染めながらもじもじと体を捩らせながら照れるマーク。女の子であればよい光景だが、男の子にしかも弟にそれをやられてもあまり嬉しくはないぞよ?



 久しぶりの兄弟の再会に喜んでいると、どこからともなく轟音が響き渡ってきた。よく聞けば、その音の発生源は屋敷の方からで、その時点でその音の主が誰なのかほぼほぼ予想が付いてしまう。



「ローラーンーおーにーいーさーまぁぁぁぁあああああああ」



 そう、その轟音の主こそもう一人の兄妹である俺の妹ローラである。俺が帰ってくることをマークから聞いて知っていたのか、はたまた俺が帰ってきたことを天性の勘で察知したのかは俺のあずかり知らぬところではあるが、俺を目聡く見つけた彼女が屋敷の入り口からこちらに全力疾走してきているのだ。



「やれやれ、この家は相変わらず騒がしいな。もっと静かに出迎えられんのか?」


「それだけ、兄さまにまた会えたのが嬉しいのですよ」



 呆れる俺にそう答えるマークの言葉を聞きながら、俺は近づいてくるローラの対応に備えるのであった。

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