125話「褐色色のおっぱいと白乳色のちっぱい」



 国王との謁見の翌日、俺は再び冒険者ギルドへと赴いていた。目的は、冒険者として王都の依頼を受けるというものだったのだが、なぜか眼鏡巨乳受付嬢のメリアンに呼び止められてしまった。



「ローランド君ですよね? あのオラルガンドの英雄の」


「英雄がどうかは知らんが、俺がガンダm……いや、ローランドだ」



 前世のヲタクな友人が言っていたので、ナチュラルに使おうとした一ネタを披露しようとして、ここが異世界であることに途中で気付いたため、中途半端なものになってしまった。ちくせう。



 メリアンが呼び止めた理由としては単純なもので、オラルガンドの英雄となった俺とギルドマスターが顔合わせをしておきたいという至極真っ当なものであった。



 こちらとしても、王都のギルドマスターを知っておくことはいい意味でも悪い意味でもプラスに働くと感じたので、一度会ってみることにしたのだ。



(これでとんでもない奴だったら、できるだけ近づかないようにすればいいだけだしな)



 転換魔法での瞬間移動をものにしてしまった今であれば、オラルガンドと王都を行き来するのも一瞬であるし、最悪の場合“お友達”である国王に何とかさせればいい。



 そんなことを考えながらギルドマスターのいる部屋に入ると、そこに待っていたのは意外な風貌の人物であった。



「あら~、あなたが魔族を撃退したっていう英雄さんのローランドくんね~。初めまして~、わたしはこのギルドの~、ギルドマスターをやっているララミールよ~。よろしくね~、小さな英雄さん」



 ここで一つ疑問を投げかけてみよう。……どっちだと思う? 今の相手の言動から考えられる可能性はおそらく二つに絞られていると思う。つまりどういうことかというと、のほほんとした雰囲気のお姉様かお姉様口調でしゃべっているオネェ様かのどっちかだ。



 まあ、こんな下らないことで貴重な時間を割くのもどうかと思うので、もう答えを言ってしまうが、答えは前者ののほほん口調のお姉様だ。……オネェ様の方じゃなくて残念だったな?



 見た目は長い白銀の髪に濃い褐色の肌をしており、その種族的な特徴として目立つ尖がった長耳がぴくぴくと動いている。体つきも種族としての特徴なのか、とてつもなく均整の取れた体で、特に割れた腹筋と肉感的な胸部装甲はまさに魔性という言葉が相応しいほどに蠱惑的だ。



 もうお分かりいただけると思うが、彼女の種族はダークエルフであり、ファンタジーには欠かせない種族の一つであるエルフ族に属している。一般的に白い肌のエルフは森と共に共存していて、身軽で弓と魔法に長けた見目の麗しい種族というイメージがある。逆にダークエルフは、荒野や森に隣接する渓谷などといった場所に住処を構えるイメージが強く、エルフと同じで見目はいいが、好戦的で夜の営みの方もめっぽう強いというイメージが俺の中である。



 というのも、エルフ好きの前世の友人が「エルフはやっぱり色白ちっぱいが最強でござるな。でも、褐色爆乳のダークエルフも捨てがたいでござる」と俺の前で熱く語っていたのを思い出し、実際にその実物に会ってみると友人の言っていたことがなんとなくわからないでもない。



 とりあえず、自己紹介されたのでこちらもいつもの簡単な挨拶を済ませ、さっそく話しを進めることにしたのだが……。



「ローランドくんは~、恋人とかいるのかしら~?」


「……そんなものはいないが」


「なら~、お姉さんとちょっといいことしない?」



 そう言って、表面積の少ない辛うじて局部が隠れている自分の服を捲り、肉感的な肌を俺に見せつけてくる。凶悪的な二つの胸部装甲が、たぷんたぷんという効果音を立てながら揺れ暴れているが、残念ながらこの未だ目覚めていない十二歳の体にはまったく効果がなく、ただスライムが野原を跳ね回っている時ようにしか見えない。



「んもう~、ローランドくんはいけずなんだから~。そんなんじゃ女の子にモテないわよ~」


「別にモテる必要ない。話がないなら、今日はこれで帰らせてもらうがいいか?」


「ちょ、ちょっと待って~。話はある、あるわよ~」


「じゃあ早く話してくれ」



 俺のおざなりな態度に、ハムスターのように頬を膨らませながら不満気な態度を現すララミール。その姿だけならば、小動物のようで可愛いとは思うが、異性としての魅力を感じるほどではないというのが俺の個人的な感想だ。



「冒険者ギルドは~、今あなたをSランク冒険者に昇格させようという動きになっているわ~。人類にとって脅威となる魔族の侵攻を一人で止めたんですもの~、それは間違いなく歴史的な快挙といってもいいわ~」


「Sランクか、まあ悪くないな」



 今のAランクでも横柄な態度を取る権力者の牽制にはなるが、それでも上級貴族の中には怯まずに愚行を仕出かす輩はいるものだ。そんな相手にSランクの冒険者という肩書は、無茶な要求をしてこなくさせるための清涼剤くらいの役目を果たしてくれるのではないかという期待があると俺は考えている。



「でも、わたしだけの一存では決められないから~、近々冒険者ギルドのギルドマスターたちが集まってそのことについて会議が開かれると思うわ~。そこで承認されたら晴れてSランク冒険者になれるわよ~」


「そうか、まあ精々期待せずに待っておくとしよう」



 それから再び彼女の魅惑のお誘い(?)が繰り広げられようとしたので、そのまま無視して執務室を後にした。執務室のドアを閉めたあとで「次あったときは絞りつくしてやるんだから~」という物騒な言葉が聞こえたが、聞かなかったことにして俺は次に商業ギルドへと向かうことにしたのであった。



「ローランド様ですね。本日、ギルドマスターがローランド様と顔合わせをしたいということなのですが、お時間をいただけないでしょうか?」



 商業ギルドにやってきて開口一番受付嬢に言われた言葉である。どうやら、商業ギルドのギルマスも俺に興味があるらしい。特に断る理由もないので、そのままギルドマスターにあることにしたのだが、今回もまた意外な人物がギルドマスターであった。



「初めまして、私が王都の商業ギルドのギルドマスターをやっております。リリエールと申します。以後お見知りおきくださいませ」


「……」



 その見た目は、長髪の金髪に翡翠色の目を持った物語の描写通りの人物がそこにいた。白乳色の肌に、スレンダーな体形には慎ましやかな胸部装甲が装着されており、ララミールの重圧な胸部装甲を見た後では少し物足りないという感情を抱きつつも、彼女の種族としては“だがそれがいい”と思わせる言葉では表現できない魅力が溢れていた。



 種族として当たり前だが、見目は当然のように麗しくまるで絵本の世界から飛び出てきたかのような存在感を放っており、少し近寄りがたい触れてしまえば簡単に壊れてしまいそうな儚げな雰囲気も持ち合わせていた。



 もうここまで言ってしまえば分かると思うが、どうやら商業ギルドのギルドマスターはエルフらしく、こちらも尖った長耳を持っているが、ララミールと違ってぴくぴくとは動いていなかった。



「あのー、何か?」


「いや、さっき冒険者ギルドでダークエルフに会ったものでな。まさか次に会うことになったのがエルフとは思わなくて」


「姉上にお会いになったのですか?」


「姉? あんたはエルフじゃないのか?」



 俺の疑問を受けて彼女が説明してくれた内容によると、元々エルフとダークエルフは同じ故郷に住んでおり、当然のように共存していた。だが、ある時期を境に別々にエルフとダークエルフとで居住を分けるようになり、最終的にはダークエルフが別の場所へ移り住んで行ったことで、エルフとダークエルフは別々の種族として認識されるようになったという過去があったそうだ。



「だが、それとあんたたちが姉妹であることの説明がついてないと思うが?」


「ですから、その共に暮らしていた時の名残が私たちエルフとダークエルフの血に残っていて、たまに私たちのような片方がエルフでもう片方がダークエルフの双子が生まれたりするのですよ」


「なるほど、そういうことか」



 リリエールの言葉を受けて、ようやく俺は納得する。だが、それにしたってこれほど胸部装甲に差が出てしまうものなのだろうか? うーん、これもファンタジーで片付けられる案件なのか?



「ローランド様? どこを見ているのでしょうか?」


「別にどこも見ていないが?」


「いいえ、今完全に私の胸をご覧になっておいででしたね? 大方、姉上の方が大きいんだなとか思っていらしたのでしょう!?」



 俺がどこを見ていたのか敏感に察知したリリエールが、声を上げながら問い詰めてくる。特にやましいことはないため、素直に白状すると「やっぱり、殿方は大きい方がいいのですか?」と項垂れながら聞いてきたのでそうでもないと一応フォローはしておいた。



 そもそも、エルフとダークエルフでは種族が違うのだから胸部装甲の大きさに差が出るのは当然なのではないかという疑問をぶつけてみると、どうやらそのよなことはないらしい。



 統計的に見れば、確かにエルフよりダークエルフの方が胸部装甲の大きな女性が生まれる率が高いが、エルフにも胸部装甲の大きな女性は一定数存在しており、言わばエルフにとって胸部装甲がないのは“選ばれなかった存在”として認識しているとのことだ。



「ですが、何故か同族のエルフの殿方や他の種族の殿方からは小さな方がいいと言われるのです。私たちは大きな胸を欲していると言うのに……」


「そ、そうか。それは、何と言ったらいいか……」



 まさか、俺が彼女の胸を凝視し続けたことで、こんな話になるとは思わず、滅多に入れないフォローを入れる羽目になってしまった。



 それから、落ち込んだ彼女を慰めるという行動に徹し、リリエールとの顔合わせはそれで終了した。落ち込ませた詫びとして、ブレスレットやシュシュなどグレッグ商会で扱っている商品をプレゼントすると、少し元気が戻ったらしく別れ際には美しい笑顔を見せてくれた。



 何はともあれ、王都にある冒険者ギルドと商業ギルドのギルドマスターは少々というか、かなり個性的な人物であるということは把握できた。それが今日の収穫であったと切り替えることにして、その日は宿に戻って精神的に疲れた疲労を回復させることに勤めたのであった。

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