110話「女魔族とのリターンマッチだったんだが、やはり強くなり過ぎてしまったらしい」



「【フライレビテーション】」



 飛行する魔法を使い、こちらを見下ろしている二人の魔族の元へと向かう。先ほどの勝敗が気に食わないのか、男魔族がこちらを射殺さんばかりに睨みつけてくるが、俺はそれを歯牙にもかけず女魔族に話し掛ける。



「よう、久しぶりだな」


「本当にね。少しはできるようになったじゃない」


「そんなことよりもだ。一応聞いておくが、お前らの目的はなんだ?」



 状況的には明白だが、一応聞いておかなければならないということで、彼女たちの目的を改めて問い掛ける。女魔族は「それって今更聞くことなのかしら?」と言いつつも、こちらが答えを待つように黙っていると、ため息を吐きつつ気怠そうに返答した。



「魔王様からこの都市を落とせと命令されたので、潰しにやってきたのよ」


「なるほど、これでお前たちの目的は明確化された。でだ……どうする? この都市を消す気なら、俺と戦うことになるんだが」


「一応こっちも魔王様からの指示だから簡単に引くことはできないのよねー。というわけで坊や、あの時の続きをしましょうか」


「ふん、仕方がないな」



 そう呟くと、俺は身体強化を八割程度まで展開させファイティングポーズを取る。それに応えるように女魔族が身構えたところで、超解析を使って相手の能力を調べる。





【名前】:ヘラ


【年齢】:289歳


【性別】:女


【種族】:魔族


【職業】:上級魔族・七魔将



体力:500000


魔力:780000


筋力:SS+


耐久力:SS


素早さ:SS-


器用さ:SS


精神力:SS+


抵抗力:SS-


幸運:SS-



【スキル】: 身体強化・改LvMAX、索敵LvMAX、隠密LvMAX、魔力制御LvMAX、魔力操作LvMAX、


 四元素魔法LvMAX、上位属性魔法LvMAX、漆黒魔法LvMAX、真・格闘術LvMAX、超集中Lv6、天翔LvMAX、


 威圧LvMAX、物理耐性LvMAX、魔法耐性LvMAX、毒無効Lv8、幻惑無効Lv8、パラメータ上限突破Lv1、魔人化Lv8


【状態】:なし




 ふむふむ、なかなかの強さだが、やはり俺よりも能力自体は下だな。だからといって、油断できる相手でないことは確かなんだけどな。



 どうやら、女魔族の名前はヘラというらしい。まあ、名前がわかったからといってだからどうしたとしか答えられないのだけれど……。



 職業の欄に【七魔将】という気になる項目があるが、文字の通りに受け取るのであればこんな奴があと六人もいやがるということだ。……萎えるわ。



「ふっ」


「おっと」



 そんなことを考えていると、いきなりヘラが身体強化を使って突っ込んできた。突き出された拳が空を切り、とてつもない轟音が響き渡る。並の人間が食らえば、確実にその部分が吹き飛ぶような威力を秘めている拳に少し驚きながらも、お返しとばかりに俺も身体強化で彼女に接近する。



「そいっ」


「きゃあ」



 俺の動きについてこられなかったらしく、女の子みたいな声を上げながら後方に吹っ飛ばされる。……まあ、実質的には女性だから間違ってはいないけど。俺の攻撃が意外と強かったらしく、ヘラの眼光に警戒の色が浮かんでいる。さて、魔族とはいえ女を弄ぶ趣味は俺にはないから本気で潰していくとしよう。



「はあ! やあ! たあ! てい! ぱちんっ」


「ぐっ、うっ、んっ、うぅ、いたいっ」



 全力の身体強化から繰り出される連続攻撃に、さすがに防戦に徹するしかない様子のヘラ。最後のデコピンは防ぎきれなかったみたいだがな。



 そこから、本気で戦いを挑んでくるヘラであったが、圧倒的なまでとはいかないまでも各パラメータが俺を下回っているということと、スキルの格自体も俺の持っている方が上なため、最後は弱い者いじめに近い状態となってしまった。



「はあ、はあ、はあ、はあ」


「なあ、もう諦めて帰らないか?」


「そ、そんなことできるわけないじゃないっ!!」



 途中で放った魔法で衣服がボロボロになり、ただでさえ表面積の少ない衣服がヤバいことになっていた。というか、右乳に関してはこぼれ落ちちゃってるんですけど……。



「じゃあ気になったから一つだけ言っておくが、右のおっぱいがこぼれてるぞ」


「えっ? あっ! きゃああああああ」



 突然指摘された内容を理解するのにしばらくの時間を要したが、俺の言葉の意味を理解すると突如として悲鳴を上げる。



「よくも、よくもやってくれたわね! もう許さないわよ!!」


「まあ、そうなんだが、寧ろそんな服を着ている方が悪いと思うんだが?」


「う、うるさい! こうなったら、本気の中の本気で相手をしてあげる。後悔しても遅いんだから!」



 そう宣言すると、彼女の体内の魔力の高まりを感じる。その魔力が形となって変化していき、ヘラの姿を変貌させる。見た目は半裸の状態ではあるものの、変化によって人間としての局部はなくなっているらしく、所謂テレビに映しても大丈夫な感じになっていた。



 それは悪魔のような禍々しい翼と、両手両足には鋭利な爪が生え揃い、全体的にバージョンアップが施されていた。



「あれが【魔人化】というやつか? それにしても、完全に見た目がデビルなマンに登場するキャラクターと被ってるんだが……」



 能力的にはかなり向上しているようだが、完全に見た目に既視感があるため、強くなった気がしない。とりあえず、先ほどよりも強くなっているのは確実なので、油断せずにこちらも限界突破は発動させておく。



「いくぞっ! この七魔将である【オサボリのヘラ】に逆らったことを後悔させてやる!!」


「お、おさぼりって……いや、もはや何も言うまい」



 何かを諦めてしまった俺は、この戦いに決着をつけるべく変身したヘラに突撃する。【魔人化】と【限界突破】でお互いに最大限の力が引き出されているため、その身体能力は計り知れず、音を置き去りにして両者がぶつかり合う。



 圧倒的なまでの連続攻撃に、常人の目では一体何が起こっているのかさえわからない。しかしながら、当人たちは今の戦況をしっかりと理解していた。



(確かに強くはなってるけど、それでもSSS+には届かないってところか……)


(な、なんなんだコイツは!? こんな人間がいていいわけがないっ! 危険よ。危険過ぎるわ!!)



 音速以上の攻防の最中でも、その実力差が如実に現れ始めた。常人には理解しがたい高次元の攻防が繰り広げられる中、とうとうその均衡が崩れる。



「そ、そんな……こんなことがあっていいはずがない」


「魔人化が切れたか、もはやこれまでだな」


「あ、あなたは一体何者なの!?」


「ただの人間だ。尤も、少しばかり人間を辞めかけてるけどな」



 とうとうヘラの発動させている魔人化の効力が切れ、元の人型の状態に戻ってしまう。……おっと、局部も元に戻ってしまったようだ。



 これ以上戦う術を持たないヘラだったが、俺の前に今まで静観していた男魔族が割って入ってきた。



「アモン……」


「ヘラ様、ここは僕に任せてお逃げください。いくらこの人間が化け物染みた強さでも、我らの本拠地にまで追ってはこれないはず……」



 アモンの決死の覚悟に、ヘラが複雑な表情を浮かべる。このあと起こる顛末を予期しているからこそ、彼女もそのような顔をしたのだろう。こちらとしては、そんな気は一切ないのだがね。



「二人で盛り上げってるとこ悪いが、ちょっといいか」


「なんだ人間」


「俺は別にお前らがこれで大人しく帰ってくれるなら、これ以上何かすることはないんだが? ああ、そう言えばあいつに言われてたんだが、もし魔族が人間を支配しようとしていたら魔王に伝言をしてくれと頼まれていたんだった」


「……?」



 俺の言葉によくわからないといった顔をする魔族たちだったが、俺が次に発した名前で彼女らの表情が一変する。



「ナガルティーニャから魔王への伝言だ」


「な、ななな、ナガルティーニャですってぇぇぇぇえええええ!?」


「彼女の伝言はこうだ。“どうやら反省の色が足りなかったみたいだねぇー? これ以上おイタをするようなら、あたしが直々に魔族を相手にすることになるけど……どうするんだい?”だそうだ」


「……」



 実を言うと、魔族の襲来を前もって察していたナガルティーニャが、結界を出る前の俺に魔族の王である魔王に伝言を託したのである。その内容が先の言葉であり、俺としてはよくわからない伝言だった。



 しかしながら、その伝言を聞いた二人の顔は青ざめており、あからさまに具合が悪くなっていた。あのロリババアが強いことは理解しているが、過去に魔族と何があったかまでは知らないため、魔族にとって彼女がどれほどの影響力を持っているのかは現時点ではわからない。



 それでも、この二人の反応を見るにあまりいい印象は持たれていない様子であることは何となく理解できる。……どんだけ嫌われるようなことをしたのだろうか?



「伝言はそれだけだ。もう行け。行って確実にこの伝言を魔王に伝えろ」


「……わたしたちを見逃すというの?」


「そう言っている。つべこべ言わずに、お前はあのロリババアの伝言を魔王に伝えればいいんだ」


「坊やは、ナガルティーニャのなんなの?」


「一番近い表現として適切なのは、あの女の弟子ってところかな。まあ、俺はあいつを師匠とはこれっぽっちも思っていないが、客観的に見れば師匠と弟子が一番しっくりくる関係だな」


「あの【厄災の魔女】に弟子が……」



 俺とナガルティーニャの関係を打ち明けると、まるで何かに怯えた様子でぶつぶつと呟き出す。先ほどまでの闘志剥き出しの態度は何処へ行ったのだろうと言いたくなるほどに、意気消沈していた。



 それからヘラたちが立ち直るまでに数分の時が掛かってしまったが、俺が無理矢理に声を掛けることで現実逃避を止めさせ、ナガルティーニャの伝言を魔王に伝えるよう促すと、そそくさとその場から転移系の魔法で立ち去って行った。



 とりあえず、最後はなんだか締まらない形での決着だったが、これで魔族が大人しくなるのならそれでいいかと自分を納得させた。

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