92話「ゴーレムを作ってみた」



 商業ギルドでのやり取りを終えた俺は、一度宿に戻っていた。時間的に少し早めに終わったので、グレッグとの約束の時間までかなり間が空いてしまっていたのだ。



 ちなみに、宿までの道中また平伏されそうな気がしたため、カモフラージュの魔法で誰にも見つからないように戻ってきたのは言うまでもない。



 とりあえず、まだ時間帯的には朝の部類に入る現在、この時間を利用してアクセサリーの増産を試みようと思ったのだが、今後の展開としてアクセサリーの生産作業に時間を取られる可能性が予想される。



 だったら、今後のことを考えてアクセサリーの生産を俺の手作りではなく、他の誰かに代行してもらう必要があるのではという結論に至ったのだが、これを実現するためには一つだけ問題点がある。



 それは、俺と同じ品質のアクセサリーを作れる腕のいい職人がいないということだ。俺のアクセサリーは魔法を使った加工方法で作られているため、地球産のアクセサリーとほとんど変わらない品質となっている。この世界にとってはかなり高品質の部類に入っているので、これを手作業で再現するのは困難である。



 それに加え、仮に腕のいい職人を確保できたとしても、そのノウハウを奪われて店を出されてしまってはこちらとしては大損となってしまう。



 そうならないようにするためには、絶対に裏切ることのない秘密を守れるような存在にアクセサリーを作ってもらうことになるのだが、そのような都合のいい存在がそこらへんにいるなどということはない。



 秘密を守れるという一点だけ見れば、主人の命令に逆らえない奴隷を購入するというのも一つの手ではあるが、先ほども言った通り俺の作ったアクセサリーを再現できる腕を持つという厳しい条件を持った職人奴隷はそうそういるものではないだろう。



「待てよ、秘密を守れて俺くらいの腕を持つ人間がいないなら、そんな人間を作ればいい。うん、まさにパンがなければケーキを食べればいいじゃないだ……違うか?」



 ここからは前世の知識を持つ俺独特の解決策になるのだが、この世界がもしファンタジーのそれであるのならまだ試していない技術がいくつかある。そのうちの一つが、モンスターや精霊などの人外を従えてそれら使役する能力である従魔術や召喚術といった技術だ。



 ファンタジー小説ではよくある能力として描かれているのだが、未だにそういった能力があるという話はこの世界では聞いたことがない。その結果から鑑みるに、この世界自体に従魔や召喚獣などといった概念が存在しないか一子相伝の秘術として扱われている可能性があるということになる。



 この世界でのそういった技術の有無に関わらず、現状その能力を習得する術がない以上、従魔術や召喚術を使用するというのは現実的ではない。では、現時点で現実的に再現可能な要素があるとすれば、やはり魔法ということになる。



「ということで、これよりゴーレム作成に着手する」



 ゴーレムというのは、ある特定の素材を使用しその素材に核となる魔力の籠ったアイテムを埋め込むことで、作成者の意志に従う操り人形を生み出す技術である。その操り人形こそがゴーレムだ。



 某有名RPGではモンスターとして登場することもあり、場合によっては召喚獣として扱われることもあるゴーレムだが、この世界のゴーレムの位置付けは人形として扱われている。その理由としては、自然発生したゴーレムが確認されておらず、そのほとんどが名のある魔法使いや錬金術師によって作成されたという話しか聞かないからだ。



 以上の点から、従魔や召喚獣というものよりゴーレムを作成してアクセサリー作りを手伝ってもらうというのが、現状取れる選択肢としては現実的なものになるのである。



 ゴーレムの作り方としてはそれほど難しい手順はなく、ゴーレムの体の元となる素材を用意し魔石などの魔力の籠っているアイテムなどをゴーレムを動かすための核として埋め込むことで、ゴーレムを作ることができる。だが、説明した内容は簡単であるのものの、それを実行するには膨大な魔力を必要とするため、作り方は広まっていても実際に作ろうとする者は少ない。



 まずは試験的にゴーレムを生み出すべく、大地魔法を使用して岩を作成する。その岩にダンジョン攻略の時に手に入れたモンスターの魔石を埋め込んでいく。当然それだけでは岩に魔石を埋め込んだだけなので、ここで魔力を注いで素材となる岩と魔石を融合させる工程を踏む。



「【クリエイトゴーレム】」



 ゴーレム作成は魔法的な要素を含んでいるため、この世界のシステムが魔法として認識するのではという推測のもと、試しに適当な呪文を唱えてみたのだが、その判断が正しかったということが結果として現れた。



 俺の魔力を吸収した魔石が素材の岩と融合し、あのごつごつしたスタンダードな体形のゴーレムが完成する。なんだかご都合主義甚だしいが、できたんだからそれで問題はない。



「ムー」


「なんで鳴き声がそれなのかはわからんが、とりあえずゴーレム作成は成功と見ていいかな?」



 作成したゴーレムは、大きさ的には三十センチほどの小型のもので、ただのストーンゴーレムだ。特別な能力を付与するための作業を行っていないため、本当にただ人の形をした岩が動いているだけの人形でしかない。



 作ったゴーレムを凝視していたら、自身の手を顔の口元部分に持ってきて首を傾げる仕草をしたので、思わず萌えてしまった。……ゴーレムのくせに生意気だ。



 そんな一幕があったが、そのゴーレムに特に指示することはないため、持ち上げてベッドに腰を掛けさせこれから始まるゴーレム生産の観客として見守っててもらうことにした。決して、さっきの萌えにあてられたわけではないことを強調しておく。



 さて、ここからはアクセサリー作りを行ってもらうための職人ゴーレム作りになるのだが、使用する素材は魔鉱石と呼ばれるものを使用する。魔鉱石は微量な魔力を含んでおり、魔力との親和性が高く魔力を込めると望んだ形に変形する性質を持つ鉱石である。ここ数日間のダンジョン攻略で、この魔鉱石がかなりの数入手できていたため、この機会に使ってみることにした。



 魔鉱石に魔力を込めゴーレムの形に変形させていく、特に手の部分は人の手とそれほど変わらないような精巧な造りに仕上げる。今回は、魔法による加工を行ってもらう必要があるため、核として使用するモンスターの魔石に風属性の魔力を込めていく。



「こんなものかな」


「ムー」



 できあがったゴーレムは、緑がかった肌をした見た目をしており、細かい作業に特化させるため両の手を人間と同じく五本指にしてある。ちなみに、一番最初に作ったゴーレムは、某国民的アニメに登場する猫型ロボットの手と同じく、丸みを帯びた手であることを言及しておく。



「よし、お前は一号だ。一号この魔石英をこうやって加工してこれくらいの大きさに加工してくれ」


「ムー」



 さっそく作業をしてもらうべく、一号の目の前で魔石英を六ミリの石に加工するところを手本として見せると、すぐに作業に取り掛かってくれた。一号が作った魔石英の石は、俺が作ったものと遜色ない造りをしていたため、安心した俺はストレージから魔石英と加工した石を入れておく箱を取り出し、とりあえず四百個の石を作ってくれと指示しておいた。



 次のゴーレムを作ろうとしたタイミングで、裾が引っ張られる感覚があったので視線を下に向けると、最初に作ったストーンゴーレムが何か言いたげにこちらを見上げていた。



「まさか、名前をつけてほしいのか?」


「ムー、ムー」



 どうやら当たりだったようで、片腕を上げながら必死にアピールしてくる。……くそう、健気なやつめ。



 仕方がないので、そのゴーレムに【プロト】という名前を付け、観賞用のゴーレムとして置いておくことにした。ちなみにプロトはプロトタイプの言葉から引用していることは言うまでもない。



 その後、新たに十一体の魔鉱石製のゴーレムを生み出し、それぞれに二号から十二号という名を付け役割を与えた。



 二号から四号には、それぞれ四ミリの魔石英の加工と六ミリと四ミリの暗魔鉱石の加工を、五号から八号には魔石英と暗魔鉱石それぞれの六ミリと四ミリの石に紐を通すための二ミリの穴を開ける作業を、九号と十号には六ミリと四ミリのブレスレットを作るための紐をポイズンマインスパイダーの糸で作ってもらい、残った十一号と十二号には石と紐を使ってブレスレットに仕上げてもらうという指示を出してみた。



 ゴーレム一体につき一つの指示を出すことで、複雑なことをさせたときのイレギュラーを回避する思惑のため十二体も作ってしまったが、さすがにいきなり十二体は魔力の消費量が半端なかったようで、久々に立ち眩みを経験してしまった。



 それでも苦労して作った成果はあったようで、瞬く間に六ミリと四ミリの魔石英のブレスレットが量産されていく。しかも、ゴーレムの作業は高速かつ丁寧であり、俺が作ったブレスレットと比べても違いがほとんどない。寧ろ俺よりも作業が早いため、俺がやるよりも効率はかなりよさそうだ。



「なんか、複雑だ」


「ムームー」



 そんなゴーレムたちの作業を微妙な気持ちで見ていると、それを察したプロトが俺の足をぽんぽんと叩いて慰めてくれた。……お前、なんでそんな感情が豊かなんだ?



 しばらくその作業を見守っていたが、特に問題なさそうなので、ストレージに眠っていたありったけの魔石英と暗魔鉱石を取り出し、すべて加工するようゴーレムに指示しておいた。



 それからグレッグとの約束の時間まである品を作るための作業に没頭し、とある商品を五つ作り上げたところで約束の時間が来たため、商業ギルドに向かうことにした。

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