第6話 戦いが始まる

 首都セントウォータース、スプンフルの屋敷。


 鉄仮面、鎧、兜そして刀、槍、銃器が立ち並ぶハウル・スプンフルの部屋。

 虎の毛皮の椅子に腰掛けるハウルの前に従者ディグリーが蛇の化身のように音もなく姿を現した。


 ディグリーは片膝をつき頭を垂れた。

 拳銃を磨きながらハウルはぶつぶつ呟く。

「……この十数年、奴はこの国を支配してきた。俺は奴を兄として敬い、神として奉ってきた。だが近頃歳のせいか物忘れが酷い。誰に支えられてここまで来たのか忘れちまったようだ。傲慢で猜疑心に溢れている。おそらく目も悪いのだろう……未来が見えなくなっている」

 ディグリーは動かない。黙って聞いている。

「モルテッドの件はご苦労だったディグリー。あの男はこの屋敷に侵入し、武器庫を調べていた。ついでにライサン、アルバータとその娘も殺してよかったのだぞ」

 ニヤリと笑うハウル。

「ディグリー、次の標的は誰だかわかるか? お前は俺の心を読めるはずだ。〝レプタイルズ〟……お前の能力は計り知れない」

 ディグリーはちらりと顔を上げ、また伏せた。

「お前がいるだけで俺は王になれる。最強の戦闘種族を操る俺は無敵だ」

 ハウルは首に掛けた鍵型のネックレスを露わにし、ディグリーに向けた。

 鍵に施された青い石が妖しげに光る。



 少し間を置いてハウルは続けた。

「ライトニング・スモウクスタックの考えている事など全てお見通しだ。奴はサンダース・ファミリーとグルだ。あれから七日経っても働きを見せない……どころか、行方をくらませている。奴が狙っているのは俺、そしてハーツよ。だがあの若造はリトル・ラムたちに任せておけばいい。お前の次の標的、それはマッド・マニッシュ」


 野望の臭気が漂う。

 ディグリーが僅かに眉をひそめたのをハウルは見逃さなかった。

「どういう懸念だ? 言ってみろ」

「……何故、マッド・マニッシュを?」

「あのスキンヘッドの白髭男はハーツの手下――ということは俺の敵」


 ハウルは壁の兄ハーツの肖像画に銃口を向けた。

「この老いぼれは俺自身の手で葬ってやる」


 ****


 好色のリトル・ラムは娼婦のメアリーに裏切られた。

 二人だけの秘密のベッドに姿を現したのはスタンだった。

 縮み上がった老体に鉛の弾丸が撃ち込まれる。

 メアリーはスタンに報酬をもらい、そっとキスをした。

「リトル・ラムは最初からレイヴォンズの街を明け渡す気などなかったのよ」



 ストーン・サンダースが送り込んだ二人の殺し屋はシナズ・プレア、クライス・カイとその配下をあっさり片付けた。


 〝ジョーカーマン〟と〝ライセンス・トゥ・キル〟。

 数々の伝説を轟かす超一流の殺し屋、二人。

 彼らこそレプタイルズだと恐れる者もいた。

 スプンフル・ファミリーは震撼した。



「二人を頼みます。必ずまた、迎えに来ます」

 ライトニングは妻アルバータと娘のコリーナを田舎に住む叔父ドリフティンに預けた。

 沈着冷静なブロウを警護につけ、生還を約束した。



 ハーツ将軍は軍を編成し、セントウォータースを固めた。

 特殊部隊が姿を消したライトニングたちを捜索した。

「生け捕りだ。裏切り者は公衆の面前で処刑する!」

 クレイドルズに再び戦乱の悪夢が吹き荒れた。


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