第2話 遊園地での事件

 その後ライトニング・スモウクスタックはファミリーを立ち上げ、有力な武族として名を上げた。

 そして十年の歳月が流れた……。



 一九五三年七月、首都セントウォータースにスプンフル傘下五大ファミリーの首領が集結した。


 そこはドン・ハウル・スプンフルの屋敷。

 定例の報酬配当の後、ドン・ハウルは厳つい目で言った。


「スモウクスタック、お前には明後日からレイヴォンズを仕切ってもらう」 

「何と? そこはリトル・ラム叔父貴の領地。ドン・スプンフル、何故?」

「エルドランドマフィアが問題を起こしてな。お前なら解決できるだろうと」

「どのような?」

「警官殺し。警察は既に動いているが、先に手を打て」



 ドン・スプンフルは犯人とされる男たちの写真をテーブルに置いた。

 向かって左側に座るリトル・ラムは子羊のようにおとなしく頷いている。

「わしはもう歳だ。引退せねばの」

 その横でシナズ・プレアが手を合わせ、祈った。

「オオ、前途ある若者に神の御加護を」

 そしてクライス・カイが乾いた目で言った。

「スモウクスタック、お前は若く信望も厚い」

 スキンヘッドのマッド・マニッシュも異論はない。

「皆お前を認めている」


 ライトニング・スモウクスタックはたくわえた口髭をさすりながら写真を見つめた。

 ドン・スプンフルはその傍に立ち肩を撫で、告げた。

「奴らを一掃しろ」

「……わかりました」


 ****


 日曜の昼下がり、親子連れで賑わう遊園地。

 八歳の少女コリーナはメリーゴーランドを目指して走り出した。

 後を追う大柄な用心棒モルテッドを少女の母アルバータが制した。

「少しはほっといて。あなたたち警戒しすぎなの。ちっとも楽しくないわ」


 列に並び、コリーナは手を振った。

「ママー、見てて! 今日は一人でのってみる!」

 アルバータは手を振り微笑んだ。

 その隣りに立つもう一人、ライサンも手を挙げ、不器用に笑顔をつくった。

 アルバータはそれを見て笑った。

「ぷっ、あなたの顔ひきつってるわ。お仕事なのはわかるけど、もっとリラックスして」

 そう言って彼女はライサンの正面に立ち、眉間の皺を指でグイッと広げた。



 二十歳になるライサンはスモウクスタック家の若き用心棒。

 すらりと背が高く髪の長い、物静かな青年だ。

 その澄んだ青い瞳は落ち着き払い、寂しげでもある。

 頑なに寡黙なのは心を閉ざした過去を背負うからだと、周囲は理解していた。

 武闘に優れ、秘めた力を恐れる者もいた。

 成人した現在、主にこの母娘の警護にあたっている。



 コリーナはしっかりと馬にしがみついた。

 ベルが鳴り、メリーゴーランドが動き出す。

 優雅に回り来るコリーナのはずだったが元気がない。

 ――やっぱり無理なのかも。以前の落馬の恐怖がよぎってる……そう心配するアルバータは大きく呼びかけた。

「コリーナ! ママがちゃんと見てるわ、大丈夫だから」


 ライサンは周囲を見渡しコリーナの安全を確かめる。

 モルテッドは厳つい顔のままライサンに合図を送り、反対側へ回った。


 コリーナはようやく顔を上げ、母親の声援に応えた。

 両手を振りながらアルバータは隣りのライサンに言った。

「ライトニングはあなたを頼りにしてるわ。勇敢な戦士だって。でも無茶しないで。自分の体を大事にね」

 ライサンがコクリと頷いたその時、メリーゴーランドの向こう側に立つモルテッドの異変をライサンは感じた。


 やがてメリーゴーランドが停まり、降りてくるコリーナをアルバータが抱きしめる。

 母娘をガードしつつ取り囲む人混みの中へ入るライサン。

 そこには倒れているモルテッドの姿が。

 ライサンは彼を抱きかかえた。

 だが既に手遅れで、モルテッドは白目をむき息絶えていた……。

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