シャイニング・ハイ SHINNING HIGH

宝輪 鳳空

第1話 少年の名はライサン

太陽が高く輝くまで 僕は待ち続けた

太陽が高く輝くまでの憂鬱が 僕につきまとった

でも 僕は泣かない

ただ黙って 待っているんだ


……MOTHERLESS CHILD.


 ****


 〝希望と夢の国〟エルドランドより遥か海の彼方……


 そこは独裁軍事国家〝クレイドルズ〟。

 統治者ジェネラル・ハーツは神と崇められた。

 軍人が貴族扱いされ、階級が明確な格差を生んだ。


 古来〝武族〟と呼ばれたスプンフル・ファミリーはギャングで、その神を後ろ盾に強大化した。

 この国に警察の統率力はなく、あるのはドン・ハウル・スプンフルの力だけだ。

 庶民の目には彼と将軍は同等だった。

 事実、ハーツとハウルは兄弟だった。


 正義で楯突く判事や弁護士はことごとく潰された。

 反旗を翻す武族や旧政府軍残党、共産主義者も根こそぎ抹殺された。

 ドン・スプンフルは首都セントウォータースの裏社会の支配者として君臨した。

「兄ハーツ将軍は我が血族の誇り。スプンフル・ファミリーはこの国を制し、統治し、栄華をもたらす神の家族なり!」


 ****


 夜、一人の男が裏街道を走り抜けた。

 腕から血を流し追手から逃げていた。

 袋小路に眩い光が射し込み、気づくと彼は小屋の中に蹲っていた。

 薄明かりに立つ黒いスーツの男が静かに見つめていた。


「ライトニング・スモウクスタック。私が貴方をここへ運んだ。力を貸そう。今こそ立ち上がる時だ」

 銀の小皿の上には血塗れの弾丸。

 ライトニングの腕の傷口は縫合されていた。

 ライトニングは黒スーツの男に尋ねる。


「……あんた、何者だ?」

「名はシグニ。貴方の同志。スプンフルそしてジェネラル・ハーツを倒すためだ」


 機関銃が唸り、煙突小屋は包囲された。

 流血を辿ってやって来たスプンフルの者たち、十数名。

 ライトニングは身を起こし、言った。

「俺は幹部の一人を殺った。スプンフルの横行とハーツ将軍の圧政は我慢ならん。死を覚悟で報いた」

 シグニが肩を掴む。

「いや、死なせない。私と私の息子が貴方を守る」

 再び機関銃が暴れ出したかと思うと、突如鳴り止んだ。


 外へ出るライトニング。

 そこには少年が一人、立っていた。

 十歳ほどの端正な顔立ちの少年。白い装甲服を纏い、灰色の髪を揺らし剣を払って。

 スプンフルの者たちは皆、地に伏している。

「……まさか、こいつらは」

 シグニが説明する。

「ああ。息子に銃は効かない。私の言うことだけは聞くがな」

 ライトニングは一瞬身が竦んだ。

 血の滴る剣を舐め、少年はニヤリと笑った。

 ライトニングと並んだシグニはその子を紹介した。

「あれが私の息子、ライサンだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る