第11話「脱衣パート④」

 新入にいり太陽たいよう桐ヶ崎きりがさきかすみ、二人の脱衣パートは最終局面クライマックスが迫っていた。


 霞には弱点があった。

 それは、こと。

 別にいやらしい意味ではないぞ。

 格闘技に精通している霞は殴る蹴る叩きつけられるなどの強烈な刺激には耐性が備わっているが、くすぐりを含めた刺激に慣れていないため、それらに極めて弱いのだ。

 どのくらい弱いかと言うと、「」で肉体からだを捩って悶絶し、「」で腰砕けになって立っていられなくなる。

 そして、そんな霞の最大の弱点は…


 気になる読者は続きを読もう!!


【現在の状況】

 ◇脱衣済着用物…四点+ブーツ

 ○クロスタイ(嚥慈色ダークレッド

 ○ジャケット(黒色ブラック

 ○ハイソックス(黒色ブラック

 ○フィンガーレスグローブ(暗銀色ダークシルバー)※格闘技用のオープンフィンガーグローブではない。


 ◇脱衣前着用物の残数…四点

 ○ウイングカラーシャツ(白色ホワイト

 ○ベスト(暗灰色ダークグレー

 ○トラウザーズ(黒色ブラック

 ○タンクトップ(白色ホワイト

 ○チューブトップブラ(水色ライトブルー

 ○ショーツ(水色ライトブルー


 以上より脱衣予定。


 では続きだ!


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……くそ!貴様のせいで死ぬかと思ったぞ!…えっ!?うわあっ!?き、き、貴様!そ、そそそ、それは…!?」


 太陽の手によって無理矢理に笑わされている間、強く瞼を閉じて耐えていた霞が呼吸を整えて瞼を開けるとそこにはがあった。

 この時、霞は椅子に座っていた。そして太陽は立っていた。

 つまり、端的に言うと、太陽が立ち、霞は座る、という構図である。

 この構図で霞が視たある物とは…


「あっ!?いやこれは違うんです!!違わないけど違うんです!!」


「違わないだろう!!そ、そ、それは貴様のチ…男性器だんせいきだろうが!!」


 そう、霞の眼前には太陽の股間。即ち太陽の息子アポロンがあった。そして、アポロンは霞のあられもなく笑い悶えて乱れた呼吸と涙目になった可愛らしい姿に過去最高レベルのバベルを建造していた。

 くすぐられて瞼を閉じていたところ、開けたら目の前にバベル。これは処女である霞にとってはまさしく不意討ちであった!

 それ故に思わず「チ…」と口走った。しかし、そこはやはり育ちのいい霞だ。直ぐ様男性器と言い直した。

 ぶっちゃけ霞は明らかにチ○コと言おうとしたのだが、読者諸君、そこには触れないであげてほしい。


地の文キサマが触れているだろうが!地の文キサマいつか殺してやるからな!)


「確かにそうなんですけど!!というかあのあまり見ないでください!!恥ずかしいんですから!!」


「なんだと!?恥ずかしいのはワタシだ!そもそも見せているのは貴様だろうが!とっとと引っ込めろ!」


「無茶ですよ!!一度こうなったら落ち着くまで少し待たないと!!」


「なにいっ!?なら貴様はその状態の侭で脱衣を続けるというのか!?」


(ふ、ふざけるな!劣情を抱いた状態ままでワタシに触れるなどあり得んぞ!)


 霞は気付いていなかった。太陽はこの脱衣を始めてからずっとバベルを建造していた。


 否!!


 脱衣を始める前からバベルを建造していたのだ!!!


 だが、霞は見て見ぬふりをしていたわけではないぞ。それを意識する余裕がない程に太陽に翻弄されていたのだ。

 正面から脱がす、隙間に手を入れる、これらは霞の脳を麻痺させ、視野を狭くした。


 脱衣パート開始から今までずっとバベルは常に太陽の股間に鎮座していたのだ!!!!


 とは言え、脱衣パートが進むにつれてバベルはより天高く育ったのは事実だ。

 更に言うと今はほぼ最高潮クライマックスバベルに近い状態になっている。


「仕方ないじゃないですか!俺だって出来るなら引っ込めたかったんですよ!でもかすみさんが…あっ!!」


 太陽は口を閉じた。


「ワタシがなんだというのだ!言え!言わないとを殴るぞ!」


「ひいっ!!やめてくださいよ!!」


「なら言え!!」


「ぐ………言っても怒りませんか?」


「なんだと?貴様はワタシを怒らせるような事を言おうとしているのか!?」


(コイツ!なんなんだコイツ!くそ!ふざけるな!)


 霞も太陽も互いに興奮(いやらしい意味ではないぞ!)していた。

 素面しらふなら太陽が霞にこんなに言い返すことなど出来る筈もないし、霞がこんなに声をあららげる事もない。


「そ、そうじゃないですよ…でも多分…というか絶対怒ると思います……」


「…ちっ!わかった。怒らないから言え」


「絶対に?」


「ああ、絶対に怒らん!もし怒ったらワタシを怒っていい!」


 いやいや、霞よ、言葉遣いが乱れてるぞ。

「怒ったら怒っていい」とかあまりにも本末転倒だ。


「じゃあ言いますよ?絶対怒らないでくださいね?」


「くどい!」


 そして、太陽は真顔で霞を見つめて口を開いた。


「あの…のはその…かすみさんの笑った顔が可愛くて、それでその後の涙目が物凄くエロく見えてしまって……んぐっ!?」


「………………」


「!?!?!?!?!?!?」


 九秒…


「………………」


「!!!!!!!!!!」


 十六秒が経過した。


「…ん…はぁ………ちっ!おい!こ、これで全て無効だ!わかってるな!」


「……あの……これって……」


「何も言うな!!くそ!!初めからこうしておけばよかった!!こんなに辱しめられるならばキスくらいどうってことはない!!」


(ワタシがエロいなどと!ふざけるな!)


 霞は禁じ手を使った。

 それは…


「あの……」


「黙れ!何も言うな!今のは沈黙の十三秒間ユダ・セガールだ!」


 霞は脱いだ着用物を着ながら吐き捨てるようにそう言った。


 ここで時間停止タイムストップ


 停めた理由は勿論、沈黙の十三秒間ユダ・セガールの説明だ。


沈黙の十三秒間ユダ・セガール

 それは、あらゆる場面に於いて全ての試合結果を無効化してしまう野球式クイズ対決の究極にして最悪の禁じ手である。

 その条件は以下の通り。


 ○発動者は発動によって十三秒以上の沈黙を獲得せねばならない。

 ○発動者は被発動者に十三秒以上キスをし続けなければならない。

 ○発動者はでなくてはねらない。

 ○発動者は女、被発動者は男でなくてはならない。

 ○発動は無告知でなくてはならない。


 これらを満たした場合、発動者の参加した試合結果は無効となる。


 沈黙の十三秒間ユダ・セガールとは、発動者である女が十三秒以上のキスを男に強いる事で効果を発揮する禁じ手なのだ。

 負けた者が試合結果を全て無効にしてしまう故に、沈黙の十三秒間ユダ・セガール禁忌の接吻ノーサイド・キスよりも卑怯な手として位置付けられている。

 しかし、セガールなのだから仕方がない。

 セガールはピンチにも至ることのない最強の戦士なのだ!


 では、時間停止タイムストップ解除!


沈黙の十三秒間ユダ・セガールって…ええっ!?廃止されたんじゃ…」


「…そうだ。だが、今年度…というより貴様が入部したことで再び導入された。男部員が入ったのだからな……よし。もうワタシは行くからな。お前はを引っ込めてから部室を出るんだぞ。騒ぎを起こしたらワタシが直々に手を下すからな。それと、部室の鍵は後で理事長室まで届けにこい」


「わかりました。後で行きます」


「あ……そうだ。霧子きりこ様には絶対言うなよ?」


「えっ??何がですか?」


「貴様ふざけて…いや、貴様はこれが平常なのか。…ワタシと貴様がその…キ、キスをしたってことだ」


「あ…はい。わかりました」


「ちっ!」


霧子きりこ様に対する罪の意識とかはないのかコイツは?…くそ!)


 こうして、二人の脱衣パートは終わった。

 沈黙の十三秒ユダ・セガール、それはあまりにも唐突な結末だった。


 ガララ…ピシャッ…


「……………………」


 タッタッタッ…バタンっ!


「ーーーーーーーーっ!!!!!」


 部室を出て女子トイレへと駆け込んだ霞はハンカチを口に当てて絶叫した。


(くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!なんでこんなことに!!ワタシの初めてのキスなのになんで新入太陽あんな奴に!くそ!くそ!)


 それは、悔しさと安堵の絶叫だった。

 暫く絶叫した後、霞は冷静さを取り戻した。


(どうせならもっと早くしておけば…いや、アレをされなければその先にある危険に気付かなかった……)


 アレとは、太陽の指先で脹ら脛を撫でられたことである。

 それは霞にとっての限界を示していた。

 脹ら脛を撫でられただけで涙目になるほど笑わされて悶絶寸前になるのであれば、自身の弱点に触れられたらどうなるか…それを考えた上で沈黙の十三秒間ユダ・セガールという禁じ手を使うに至ったのだ。


(恐らくベストは大丈夫だと思う…だが、もしもシャツやタンクトップを脱がされていたら…ワタシは失神していたかも知れない…ワタシとしたことが完全に忘れていた…昔、霧子きりこ様と擽り合いをしたときに脇腹を触られて死にかけたんだ……)


 そう、霞の弱点はだ!!!

 霞は幼少期に霧子と二人で互いに擽り合うというをしていた時に呼吸困難で死にかけたことがあった。

 相手が呼吸困難になるまで擽った霧子がどうかしているのでは?と思うだろうが、そんなことはない。

 霧子は僅か八秒間、たった八秒間だけ脇腹を掴んで揉みしだいただけなのだ。

 その八秒間の刺激で霞は呼吸困難になるほどに笑い、死にかけたのである。

 霞の記憶からはそんな事もいつしか忘れ去られていた。


 だが、肉体からだは覚えていた!!!


 肉体からだが思い出したら心もまたそれを思い出すもので、霞は太陽に脹ら脛を撫でられた事でその記憶を甦らせ、上半身の脱衣が自身に与えるダメージを考えた。そして、無理矢理に脱衣を終わらせたのだった。

 これは不本意ではあるものの、もしも脇腹を触られて失神していたならばどうなるかわかったものではない。

 失神ですめばいいが、もしも失ではなく、のほうをしてしまったならばもはやだ!!!

 失態や恥態では済まない。

 それを鑑みた結果、霞は沈黙の十三秒間ユダ・セガールによるファーストキスの喪失を選択した。


 では、これにて脱衣パートを終わりとする!


 次回「エピローグはキスの味」

 乞うご期待!

 ※中途半端な脱衣でごめんなさい!最初からこの終わり方を想定していました。

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