第6話「続続・5回表」

 新入にいり太陽たいよう桐ヶ崎きりがさきかすみ、この対決は三度目の5回表が勝負の分かれ目となるのか!?


(ここしかない…僕が勝つためにはここで点を取るしかない。今回用意出来たゲーム問題は約60問…もし延長の11回まで持ち越されたら他の問題を出すしかない。そうなれば勉強に関するを問う問題になるからたぶんかすみさんは正解するだろう…いや、そもそもゲーム問題だから大丈夫という確約はない…畏怖おそれるな、!俺なら出来る!)


 その時、心の中での太陽の一人称は俺に変わっていた。

 そして、太陽はゆっくりと口を開き、高々に宣言した。


一問全問オールインします!!!」


「なっ!?お前それ真剣ほんきなのか?」


 霞は思わぬ宣言に動揺した。それは太陽の発言の直後に下を向いた霧子もまた同じかと思えた。

 だが、霧子は動揺していなかったァ!!!

 霧子は確実たしかに驚いてはいたが、その驚きは動揺を誘う驚きではなく、その逆の意味を持つ驚きだった。

 この時、霧子は感嘆や称賛に似た感情を抱いていた。


「ふ…ふふ…ふふふ…」


霧子きりこ様?」


「き、霧子きりこさん?」


 下を向いた状態で突然笑い始めた霧子に霞と太陽は揃って声をかけた。

 不気味、心配、恐怖、畏怖、畏敬、様々な想いが込められた声かけだった。


「ふふふふふふ!新入にいり太陽たいよう!やはりあなたは奇妙おもしろいわ!」


 霧子は顔を上げながらそう言った。

 剣ヶ峰けんがみね霧子きりこ、再び豹変!!

 今回の霧子は愉悦にも似た感情によって豹変した!!

 それは、太陽への期待と想定外の展開への興味からくる感情の爆発だった。

 霧子は普段から感情を抑えなくてはならない立場であり、ある意味では自分自身を演じている部分がある。そのため、本来の姿、即ちと豹変したかの様に思えるが、実際はこれが真実ほんとうの霧子なのである。

 霧子は退屈を嫌い、想定外を好む。無論、その想定外が霧子にとって気に入らないものであれば好みはしないが、基本的にで期待を裏切られるのが大好きなのである。

 そして、今回のこの一問全答オールインは霧子にとっては寝耳にどころか寝耳に…いや、寝耳に程の想定外だった。

 寝ている耳に水を注がれるだけでも驚くのにも関わらず、あろうことか蚯蚓みみずを入れられたら驚きは半端ではないだろう。況してやそれが木菟みみずくであるならば発狂ものである。…いや、ある意味では蚯蚓も発狂ものではあるかも知れないが。

 ともかく、水よりも蚯蚓、蚯蚓よりも木菟のほうが驚くことは間違いない。何しろ水は基本的には自らの意思で動くことがない液体なので驚くだけで済むが、蚯蚓は自らの意思で動き回る還形動物であるため奥に入る可能性がある。更に木菟は捕食者として進化した猛禽類なのだから耳に近づけるだけでも危険極まりない。

 一応、説明しておくと、木菟とはふくろうによく似た(フクロウ科)鳥類である。

 木菟と梟の見分け方は、羽角うかくと呼ばれるの様に見える部分があるかどうかである。言わずもがな、耳(羽角)があるのが木菟、ないのが梟だ!!


「回答者である太陽たいよう一問全答オールインの宣言、審判として受理するわ。さあやりなさい太陽たいよう。あなたの土壇場力そこぢから、私に見せてみなさい!」


霧子きりこさん…は、はい!」


 太陽が返事をしたところで時間停止タイムストップ

 新たなるワード、延いては新たに登場した野球式クイズ対決のルール、一問全答オールインについて説明をしよう!


 一問全答オールインとは?

 野球式クイズ対決の試合に於いてのみに限定して試合中にだけ発動可能なルールである。尚、発動者は攻撃側に限る。

 発動の条件は前述の通り奇数回であることに加え、その回に一度のストライクも取られていない状態、つまり、その回に不正解をしていない状態で尚且つ一人でもランナーがいる時にのみに発動出来る。

 攻撃側が一問全答オールインを発動した場合、攻撃側は発動後の一問目にその回のを賭けて挑むことになる。

 これはつまり、発動後のたった一問にことになるのである。

 一問にスリーアウト、これはまさしくであり、である。

 不正解ならば、通常は最低でも六問答える権利がある攻撃側が一問の不正解でチェンジとなるからデメリットは大きい。

 だが、一問全答オールインはデメリットだけではなく、ちゃんとメリットもある!

 それは、リンスをしなくてもいいという些細な事ではない!

 一問全答オールイン発動後に正解した場合、その代価として攻撃側が正解した場合は相応の報酬を得られるのだ!

 その報酬とは、発動後の一問目に正解した場合は一挙にとなるのである。

 これがどういうことかというと、以下の通りである。

 一問全答オールイン発動後の結果によるその後の状況について。

 不正解の場合…スリーアウトにつき即チェンジ。

 通常の正解=シングルヒットの場合…その時点のランナーの数+1点を獲得し、二塁と三塁にランナーがいる状態になる。

 初心者は勘違いしがちなのだが、一問全答オールイン発動後のシングルヒットはランナーの数だけ得点して満塁になるのではないぞ!

 何故ならば、野球式クイズ対決は連続正解の数で長打になるルールがあるからだ!これは基本中の基本だぞ!

 これにより、一問全答オールインで正解した場合は一挙にヒット、ヒット、ツーベースを放った事になるため、ランナーの数+1点となるのである。

 さらに、一問全答オールインは早打ちによるホームランや特殊問題(視覚に頼った問題)のツーベースにも適応される。

 つまり、一問全答オールイン+早打ちならば、バース、掛布かけふ岡田おかだの如くの三者連続ホームランとなり、ランナーの数+3点獲得する事が出来る!

 そして、一問全答オールイン+特殊問題ならば、ツーベース、ツーベース、スリーベースとなり、ランナーの数+2点獲得+ランナー三塁となる。※特殊問題での正解は何れの状態に於いても一つ長打になるため二者目まではツーベース、三者目はスリーベースとなる。

 尚、一問全答オールインは発動回に於いて常に発動し続ける。文字通り、なのだ!!

 つまり、一問目に正解した場合は以後は不正解するまでずっと一問全答オールインが続くため、その回の二問目は残っている(一問目がホームラン以外の場合)ランナー+3点、以降は一問正解する毎に3点獲得となる。

 一問全答オールインについての説明は以上だ!

 では、太陽の奮闘に期待して…

 時間停止タイムストップ解除!


「くくく…」


かすみ先輩?」


 唐突に霞が放った小さなに太陽は霞の顔を見た。その直後、霞は天(正確には天井があるが)を仰いで高々と笑い出した。


「くははははは!お前それ真剣ほんきで言っているのか!?お前が一問全答オールインするだと!?くく…くはっ!駄目だ!笑いが抑えられない…くははははは!」


「!?!?」


(か、かすみさんがこんなに笑うなんて!!?)


 太陽は鉄面皮で笑うことなど無いと思っていた霞の高笑いに驚いていた。

 だがな太陽、お前は甘いぞ!

 霞とてまだJKなのだ!笑うときは笑う!というか実は霞は笑いやすい!

 昨晩も霧子の使用人としての任務しごとを終えた後に自室で『ラクダvs.アルパカ ~人類滅亡の日~』というSFサイコファンタジー映画を観て大笑いしていた。

 …っと、読者諸君、これは最上位機密トップシークレットだ。誰かに訊かれても俺に聞いたとか言わないように頼む。

 ちなみに、ラクダが機関銃を持って人類と戦う場面とアルパカが戦闘中に毛皮を脱着パージした場面では呼吸困難になるほど笑っていたのも内証にしてくれ!


かすみが人前で笑うなんて珍しいわね。太陽たいよう一問全答オールインがそんなに面白いのかしら?」


「くはは…くく………ええ、霧子きりこ様、面白いです。ワタクシの問題に対して未だ全問不正解中のこの男が一問全答オールインしたのですよ?どう考えても勝負を投げているとしか思えません。こんな捨て身の一問全答オールイン、笑わずにはいられません」


「ふふ、そうね。馬鹿にされているみたいでわよね」


「!!!」


 図星だった。

 霞の笑いの半分は心からの笑い、思わぬ展開への好奇を笑ったものだったが、残りの半分はやさしさ…もとい、馬鹿にされたという感情を隠すためので笑っていたのだった。

 つまり霞は笑うことで自身の心に生じた怒りを隠していたのである。


「あら?図星だったかしら?」


 うむ。前述の通り、図星である。

 何を隠そう、俺は登場人物きみたちの心が読めるから間違いない。


地の文あなた、少しだけ黙りなさい」


 ………霧子の言葉に従い、ほんの少し黙ることにしよう。


「…かすみ。この太陽たいようという男は決して勝負を投げたりはしないわ。ことはあってもことはしないのよ」


「…霧子きりこ様、わざと負けるのは勝ちを諦めることではないでしょうか?」


「ふっ、そうかも知れないわね。でもでは太陽にわざと負ける気はないわ。つまり、勝ちを諦めることとわざと負けることが同じであったとしても、ここでは諦めてはいないのよ」


「………つまり、霧子きりこ様はこの男がに勝つつもりで一問全答オールインしたと、そう言いたいのですね?」


 今、霞は自らのことを「ワタシ」と言っていた。これはつまり、素が出たということである。

 人前で霧子と話す際には必ず「ワタクシ」を一人称にしていた霞が太陽がいるにも関わらず、霧子と話しながら「ワタシ」と言ったのはそういう理由である。


「ええ。太陽たいようは本気であなたに一問全答オールインしたのよ」


「………おい、新入にいり太陽たいよう、本当にそうなのか?」


「えっ!?お、俺?」


(い、今!って言ったよな!?つかここで俺に訊くの!?)


「お前以外に新入にいり太陽たいようがいるのか?私はお前に勝つつもりで一問全答オールインしたのかと訊いている。早く答えろ」


「…はい!俺はここで正解して試合に勝つつもりです!」


 太陽は胸を張って答えた。

 その時、霧子は太陽に期待の眼差しを向け、霞は一瞬だけ口元を弛めた。

 その弛みはさっき笑っていた時の弛みとは違い、太陽を敵として認め、無意識に出た弛みだった。


「なるほど、そうか。…ならば全力で叩き伏せるまでだ!」


「ふふ、どうやら無駄話はここまでのようね。太陽たいよう、回答準備は整っているわね?」


合点承知之助がってんしょうちのすけです!」


「いい返事よ。では試合再開よ。かすみ、速やかに出題しなさい」


「了解しました。では………」


 遂に長い幕間まくあいの会話が終わり、一問全答オールインの効果が発動された一問が出題される!

 ズガーン!!!※落雷の音のSE※

 次回「運命の一問全答オールイン!」

 乞うご期待!


 …ポロリがあるかもよ?

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