第2話「試合開始~1回表」

 新入にいり太陽たいよう桐ヶ崎きりがさきかすみ、実に久しぶりの対決(作中では数日なのだが)となる二人の対決はいよいよ開幕の瞬間ときを迎える!


「では太陽たいよう、あなたが先攻、かすみが後攻よ。準備は良い?」


「はい!」


「良い返事ね。それではかすみ、速やかに出題を開始しなさい」


「はい、霧子きりこ様」


 ついに試合が始まった。

 頑張れ太陽!今度こそ女の子の裸体を俺に見せてくれ!

 お前の姿やバベルの塔はもういい加減見飽きた。

 三作目だしそろそろ女の子のの膨らみや豊満な、神秘のを見せてくれ!


 ここでさっそく、時間停止タイムストップ


 もしも、読者諸君が前作や前々作を読んだことがあるならば何となく伝わっているかと思うが、念のため説明しておく。

 魅惑の双丘とは、実在の丘ではなく女の子のおっぱいの事である。

 男にとって(女もか?)おっぱいは幾つになっても惹き付けられる魅惑の膨らみである。赤ん坊から老人までおっぱいが嫌いな男はほぼいない。

 更に、K2とは、カラコルム山脈の測量番号に由来する世界第2位の標高を持つ山の名前ではなく、お尻の事である。つまりケーツーとはケツの事である。

 そして、ディクテオン洞窟とは、ギリシャ神話でゼウスが生まれ育った洞窟と同一視されているギリシャに実在する洞窟ではなく女の子の…

 いや、これは説明しないでおこう。

 万が一女性の読者がいたら絶対にアホだと思われる。さすがの俺もこれ以上嫌われたくないのだ。

 しかし、意味が気になる読者がいるかも知れないので一応のヒントは書いておく。

 ディクテオン洞窟とは、太陽にとってのバベルの塔である。

 男はバベル、女はディクテオン!

 ちなみにバベルの塔とディクテオン洞窟に関しては互いに繋がりはないので注意だ!


 では、時間停止タイムストップ解除!


「………問題。ギリシャ神話でゼウスが生まれ育ったアイガイオンの山中にある洞窟は実在する洞窟と同一視されている。では、その実在する洞窟は何処にある何という洞窟だ?一番有力視されている洞窟の名称を答えよ」


「なっ!?第一問からいきなりギリシャ神話の問題ですか!?しかもかなり!!」


「それほどコアな問題ではないわよ。コアというよりは地理と神話が融合されたハイブリッドな問題ね。この程度の問題はサービス問題よ」


「いや霧子きりこさんだけですよ!サービス問題なんて言えるのは!ミリオネ○ならフィフティフィフティを推奨すすめてくるレベルの難問ですよ!」


「うるさいぞお前。無駄口を叩いていないで早く答えろ。回答時間の制限があるのを忘れたのか?あと二秒だぞ」


「あ…はい。…じゃあ、ネクロゴンドの洞窟で」


「は?何処だそこは?不正解」


 この問題、太陽は不正解だった。ギリシャ神話にネクロゴンドが出るわけがない。


「ワンストライク。答えは地の文ナレーションを読みなさい」


「読めるわけないでしょ!つか地の文とか言うのやめてください!」


 そう、答えは地の文で触れたディクテオン洞窟である。この場合のディクテオンはのディクテオンではないぞ。


「では次、準備は良いな?」


「え?あ、はい。どうぞ」


(やべえよ…かすみさん、口調も刺々しいしメチャクチャ不機嫌だよ……僕なんかしたっけ?いや、してねえよ。話したのだってまだ二回目だよ…入部届け持っていった時の、お願いします、嗚呼、以来の会話だよ…つかかすみさん、答えは教えてくれないんですか?霧子きりこさんが言ったように地の文を読めと?)


 否、霞は不機嫌ではない。辛辣で無愛想なだけである。なお、どちらも太陽に限る。


(何で僕だけ!?)


 おい太陽!地の文をツッコむな!というか読めなくてもツッコミは出来るのか!?


「第二問。ギリシャ神話に於いて人類最初の女性とされるのは………パンドーラーだ。では、そのパンドーラーが開けてしまった厄災が詰まっていたとされる物は一体何だ?答えよ」


「え?パンドーラーってパンドラのことですよね?ってことは…箱、ですか?」


「は?なぜ回答に疑問符を付けている?答えるならはっきりとしろ」


「あ…じゃあ箱で」


「…じゃあ?」


「いえ!箱!答えは箱です!」


こええって!マジで怖過ぎる!なんでこの人、じゃあ?、の三文字だけでこんな威圧感だせるんだよ!そもそも細かいよ!)


 霞は言葉遣いに厳しいため、無意味な言葉を嫌う傾向にある。霞に問われた時ははっきりとした声量で明確に答えなくてはならないのだ。


「不正解。答えはかめだ」


「えっ!?なんでパンドラの箱じゃ…!?」


「ふふ。太陽たいようかすみと言ったわよね?パンドラ、正式にはパンドーラーが持ってきたとされる物は本来は箱ではなく、古代ギリシャ語でπίθοςピトスという貯蔵用の甕のことなのよ。以後の問題にも関わるかも知れないからあまり詳しくは説明しないけれど、本来はπίθοςピトスでありπυξίςピュクシスではないのよ。あ、πυξίςピュクシスは今で言う化粧箱のことよ。それはともかく、パンドーラーについて書きしるされた一番古い文献に記載されていたのはπίθοςピトスなの。つまり答えは甕よ。これでワンアウトね。大丈夫かしら?」


「大丈夫もなにもまだ始まったばかりですからね。これからです」


「ふふ、その意気よ。でも、今の問題の引っ掛けに釣られなかったのは良かったわ。ではかすみ太陽たいようは回答準備万端よ」


(あの不自然な間はやっぱり引っ掛け待ちだったのか…良かったもなにもギリシャ神話で人類最初の女性がパンドラなんてこと知らないから答えられなかっただけですよ。パンドラはハーデスが人間に転生した時の世話係かと思ってた。ていうか二問連続ギリシャ神話関連って……)


 ワンアウト!

 太陽は続けて不正解し、アウトとなった。霞の出題は二問ともギリシャ神話に纏わる問題だったが…


「第三問。北欧神話と似て非なるモノとされるフィンランド神話の主神が扱うハンマーの名称は何だ?主神とは最高神と似たものと思っていい」


「何だと言われても神が扱うハンマーなんて知ら…あっ!ミョムニル!」


「は?それはミョルニルの事か?」


「あ、はい。それです。くそ!間違えた!言いずらいし覚えずらいんだよなあ…」


「…どちらにしても不正解だ。ミョルニルは北欧神話のトール…いや、お前にはソーと言った方がわかりやすいか?ミョルニルは映画で見て知ったのだろう?」


「はい!アメコミの映画です!かすみさんは観ましたか!?」


「なっ!?おいお前!馴れ馴れしく私の名前を呼ぶな!このれ者!」


「す、すみません!えっと、じゃあどうしよう…そうだ!桐ヶ崎きりがさき先輩と呼んでもいいですか?」


「それでいい。…では答えだ。ミョルニルは北欧神話の神が扱うハンマーの名称だ。フィンランド神話の神が扱うのはウコンバサラと呼ばれている」


「へえー!覚えておきます!桐ヶ崎きりがさき先輩!」


「…覚えておきます、先輩、ねえ……」


「ん?霧子きりこさん、何か言いました?」


「いえ、何も言っていないわよ…」


(あれ?なんか不機嫌っぽい?なにかあったのかな?)


 太陽は童貞であるが故に女心に鈍い。

 霧子は自身と対決した時には一度も「覚えておきます」と言われていなかった事と、太陽が霞に対して自然に「先輩」と付けて呼んでいた事に対してやや不満があった。

 霧子が剣ヶ峰学園に転校してきた太陽と顔を会わせたのは茜に連れられた太陽がクイズ部へ入部届けを提出しに来た時であり、それ以後は部長、さらには対決をきっかけにして霧子さんと呼ばれることになったため、先輩と呼ばれたことがない。

 しかし、この日が太陽と顔を会わせるのが二度目である霞に対して太陽は桐ヶ崎と呼んだ。霧子はそれが気になった。

 これはつまりジェラシーである。些末な事ではあっても気になってしまうのが恋する女の子のなのである。


「おいお前、次いくぞ」


「は、はい!」


 それから太陽は一問も正解出来ずに攻撃を終えた。

 この回に霞が出した問題はギリシャ神話とフィンランド神話と北欧神話からだった。

 そして、太陽が出題者となる1回裏がやって来た。

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