奏視点 つなぐ

 てると結婚して愛華を産んでから五年の月日が流れた。

 本当はもう少し新婚気分で居たかったんだけど、どうしてもてるとの間の子供が欲しかった。


「ママ、おはよ」


「おはよ、今日も一人で偉いね」


 愛華は私が大事に使っていた熊のぬいぐるみを抱き締めながら、目を擦りながらやってきた。

 昔の自分もこんな感じだったのかな?よく分かんないや。


「ふあぁ……愛華に起こされた」


 ボサボサ頭のままやってきて、思わず笑ってしまう。


「ご飯出来てるから」


「いつも悪いな、愛華ー顔洗いに行こう」


 二人で洗面所まで行く後ろ姿を見つめながら、二人の朝御飯を用意した。





 ☆






 今日は藍華さんのお墓参りの日。

 愛華にとっては初めての体験で、不思議な顔をしながら真っ黒な服に身を包ませ病院に向かった。


「奏、ここ来るのって何年振りだっけ」


「高校以来だから……九年?」


「もうそんなに経つのか……色々ありすぎたな」


 この五年の間でも色々なことがあった。

 一葉ちゃんが結婚して幸せに暮らしていることと、千花と総司君が遠い存在になったこと。

 そして義妹の蒼衣ちゃんと貴之君が来月結婚式を挙げるみたい。


「久し振り、さん。遅くなっちゃった」


 てると一緒にお花等を変えながら、色々なことを話した。


「あーあと、知ってるかもだけど娘の。奏によく似ててすっげえ可愛いんだぞ?」


 笑顔で話すてると照れくさそうに頭を撫でられる愛華。

 なんだか盗られた気分でムッとしてしまう。


「奏?ヤキモチ?」


「なっ……ち、違うもんっ」


「ママ、真っ赤だー」


 てるは私の……旦那様なんだから。


「藍華さん、俺今幸せだよ。奏と一緒に居られるようになったし。結婚して子供だって出来た。あの時君と出逢ってなかったら今どうなってたか分かんない」


 てるは突然語り出し、私の頭を抱き寄せた。その際に高校時代の記憶が甦った。

 今とは違う臆病な性格の私。


「俺達の事、ちゃんと見守ってくれ。愛華の為にも」


 てるは手を合わせ、私と愛華も一緒になって合わせる。


「……よし、帰るか」


「うん!」


 愛華は元気よく答えて、私とてるの手を繋ぐ。

 まるで本当にそこにさんが居るんだと思ってしまうぐらい。


「パパとママはずーっと一緒!」


 幸せになれなかった藍華さんの分まで、この子には幸せになって貰いたい。

 だから私はこの子には精一杯の愛情を注ぐ。てるも。


「愛華も一緒だぞ?」


「そうだった!えへへ~」


 私達は笑い合う。


『奏ちゃんも幸せそうで良かった。娘さんの事は私も守ってみせるよ』


 ふと、そんな声が何処かで聞こえたような気がした。

 てるも感じたのだろうか?後ろを振り返ってた。


「……あぁ、よろしくな」


 隣の君へ fin

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隣の君へ 翔也 @syoya_416

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