一葉視点 私とマネージャー3

 マネージャーこと野沢さんと交際するようになり、仕事の質というか扱いが変わってきた。

 脇役ばかりだった私が、いつの間にか準ヒロイン役をやるようになった。

 ようやく有名になれるんだ。そう思っていた。


「……これは」


「まずいですね……」


 野沢さんが持ってきた週刊誌にばっちりと私と野沢さんが写っており、熱愛報道一歩手前まで来ていた。

 どうするべきか悩んでいたところに、社長さんが現れる。


「お久し振り、だね?長谷川君。仕事は順調?」


「社長……?!いつからここに……?」


「いやあ何、近くを通り掛かったからついでにと思って……ふむ」


 社長さんの目には、週刊誌の私達のページをじっくりと眺めていた。

 折角彼とここまで来たのに……やっぱり辞めなきゃいけないのかな。別れなきゃ、いけないのかな。

 そう思うと涙が出そうになり、顔を俯かせた。


「社長……!これには訳がありまして……」


の熱愛、ね……いやーいつの時代もこういう人は居るもんだね」


 予想していた答えとは全く違う答えで、なんだか拍子抜けしてしまう。


「君達の親世代でもね、似たようなことは起こっていたものだ。だからこれぐらいの事で辞めろだなんて言わない」


「じ、じゃあ……!」


「だけど少し自重したまえ、ほとぼりが冷めるまではね」


 私と野沢さんは社長さんに頭を下げ続けた。感謝しかない。





 ☆







 それから数ヶ月経ったある日、皆が私たちとの熱愛疑惑を忘れかけていた頃。

 前から逢いたいと言っていた野沢さんの姉妹に逢うことになり、野沢さんが住むご自宅にお邪魔することに。


「一葉さん、少しここで待っててくれませんか?」


「うん」


 一体どんな人達なんだろうか?素敵な人達だといいな。


「――どうぞ」


 彼の声と同時に玄関へと入ると、私とほぼ一緒ぐらいのお姉様とかつて好きだった人の妹さんと同じ歳頃の妹さんが私の顔を見て驚きを隠せずに居た。


「お、おに……お兄ちゃん?!こ、この人……え?!嘘でしょ!?」


「ねえ……ほ、本物なの……?」


「うん、改めて紹介しますね。こちらが僕の姉と妹です」


 二人とも物凄く美人で、私なんかと比べ物にならないくらいで羨ましかった。


「で、この人が。知ってるだろうけど、長谷川一葉さん」


 僕の彼女……駄目だ。恥ずかしくて前が見えない。


「よ、宜しく……です」


「あんた、意外とやるじゃん。流石に見直しちゃった」


「余計なお世話だよ。姉さん」


 それから野沢姉妹と仲良くなり、姉妹と別れた後の帰り道でのこと。


「今日はありがと、楽しかった」


「そう思って貰えて良かった」


 久し振りの二人きり。今まで我慢していたものを全て吐き出す。

 熱い抱擁から接吻、彼の全てが格好良く見えた。


「一葉さん……これを」


 彼がポケットから出したのは、小さな箱のようなもの。


「これを、私に……?」


「本当はもう少し待ちたかったけど、姉さんが煩くてさ」


「開けてもいい……?」


 彼は頷き、箱を開けると中に入っていたのは綺麗なリングだった。えっ?これってもしかして……。


「僕と、結婚してください」


 涙が止めどなく溢れ出てくる。ようやく……私にも運命の人が……。

 高校時代から五年程掛かったけど、遂に私も皆と同じ道へ。


「はい……っ、末長くお願い致します。


 初恋が叶わなかった私にも、ようやく春が来たよ。

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