番外編

蒼衣視点 お兄ちゃん

 どうも、東條蒼衣です。

 今は高校三年生、お兄ちゃんがかな姉と結婚してから早一年が経ちました。

 かな姉のお腹には赤ちゃんが居ると聞かされた時は、驚愕して家に押し掛けた程です。


「うあー!わかんないよー!!」


 今は看護士になる為に勉強を頑張ってるけど、思った以上に難しくて部屋に籠りっきり。

 今やってる内容が難しすぎて机の上に倒れ込む。


「……はあ、たっくん」


 目の前には修学旅行で二人で一緒に撮った写真をじっと見つめてる。

 お兄ちゃん達は今何やってるんだろうか。二人に逢いたい。


「蒼衣ー、ご飯よ。早く降りてらっしゃい」


「はーい」


 っと、ご飯食べてから再開しよっ。






 ☆






 自分の部屋からリビングに向かう途中、見慣れた靴が二つあった。

 もしかしてお兄ちゃん達、帰ってきた?


「――そんなんじゃないってば」


「でも―――でしょ?」


 この声はやっぱり……。

 私は勢いよく扉を開けると、お兄ちゃんとかな姉が居た。


「お兄ちゃん!おかえり!!かな姉も!」


「ただいま蒼衣、勉強頑張ってるんだってな?」


「うん!」


 かな姉はというと、お母さんと何やら話していて真剣な表情をしてた。


「あ、そうだ。予定日いつなの?」


「予定日って六月頃だったよな?」


「うん」


 かな姉のお腹は大きくて、動くのが少し辛そうだった。


「お兄ちゃんとかな姉の子供って、どんな感じなんだろうね?」


「そりゃあ奏みたいな甘えん坊だったら――っていででっ!そうやってすぐつねるな!」


「……甘えん坊じゃないもん」


 何か可笑しかったのか、二人は一緒に笑い合っていた。

 それがちょっと寂しくて、羨ましくて、ついついこの歳になってもお兄ちゃんに甘えたくなってしまった。


「……どうした?貴之と逢えねえから寂しいのか?」


 それもあるけどなんかこう……ちょっとだけあの頃に戻りたい自分が居た。


「お兄ちゃん達はさ……今、幸せ?」


「……本当にどうしたんだ?」


「答えてよ」


「……ああ、幸せだよ。奏が居てくれたから、頑張ってここまで生きて来れたんだ」


 そっか……お兄ちゃんはもう……。


「蒼衣ちゃん……?どうしたの?」


「えっ……?あ、あれ……おかしいな、ごみ入っちゃったのかな……?止まんない、よ……」


 私はお兄ちゃんの胸元に顔を埋める。


「……何処にもいかないで、お兄」


「蒼衣……」


「お兄ちゃん……っ!」


 涙が止まらなかった。まるでダムが崩壊したかのようにどんどん溢れてくる。

 それを見兼ねたかな姉が、優しく頭を撫でてくれる。


「蒼衣ちゃん、よしよし」


「や、だ……やだやだっ!お兄ちゃん!」


「本当……いつになったら兄離れ出来るんだろうな」


 頭を撫でてくれた。

 それが今年最後のお兄ちゃんとの会話。


 あの優しい顔は今も焼き付いている。

 格好良くて優しくていつまでも傍に居てくれたお兄ちゃんは、もう逢えない。


 でも良いんだ。二人の子供が生まれた時にまた来るって約束してくれたから。

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