第119話 奏視点 卒業
引っ越しの準備が終わり、今日は卒業式。
私の両親は忙しくて来れない代わりに、てるの家族が一緒に祝ってくれるとてるから聞いた。
幼稚園の頃からずっとお世話になって、もうすぐ高校が終わりを告げる。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
私は慌てて会釈をし、先を歩くてるに駆け寄った。
☆
そして卒業式が始まり、クラスと出席番号の順番に入場する。私は前の方でてるは真ん中辺り。
三年生全員が用意された椅子に座り、長い校長先生の話を聞き終えた。
「――卒業証書授与。」
一組の子から呼ばれて、次々と皆が卒業証書を受け取りに行く。
それからゆっくりと時間は流れ、いよいよ私達のクラス。
「――植村奏」
「は、はぃ……」
か細い声でゆっくり立ち上がり証書を受け取りに行く。
「植村さん、おめでとう」
皆に見られてるせいで、上手く声が出ず会釈するだけ。
そして私が証書を筒に納めに行く時。
「――東條輝彦」
「はい」
てるの名前が呼ばれて、初めて私は今日で高校生が終わるんだと実感させられた。
☆
式も終わり、皆それぞれのクラスに戻る。
このクラスで最期のホームルームが執り行われ、先生が堪えきれずに涙を流した瞬間、一部の生徒が泣き出した。
私も一瞬泣きそうになったけど、逆にてるだけは暗かった。
「もう……!また逢えるでしょ?それまで皆元気でね!」
先生は涙を流しながら精一杯笑っていた。
皆が落ち着いた後、クラスメイトの皆に別れの挨拶を交わしていつもの四人と一葉ちゃんが残った。
「……あっという間、だったね」
「そう、だな……」
加東君と千花がしみじみと呟き、それぞれが楽しかった記憶を思い起こす。
だけど、てるはずーっと遠くを見ていた。
「……てる?」
「楽しい記憶、あんまないんだ。部活も色々あったからさ」
「……気持ち、伝えてくれた」
あの時に私が一歩前へ進まなかったら、今頃どうなってたんだろう?隣に居るのは一葉ちゃんだったのかな……。
そう考えると胸がきゅーっとなった。
「何一つ良い思い出なんてなかった……最期の学祭だってそうだ」
学園祭、私達の間では一切口をしなかったあの事件。
それを聞いた他の四人は、てるを視線を向けた。
「……俺のせいなんだろ?」
「輝のせいなんかじゃねえ……!」
「総くん!」
加東君はてるの胸ぐらを掴むと、私達女子は慌てて止めに入ろうとする。
でも加東君の目は大量の涙と後悔に滲む瞳だった。
「お前がこうなっちまったのは、近くに居たのに止められなかった俺だ……!俺のせいなんだ!」
「……総司、お前」
「俺がもう少し早かったら、お前は奏ちゃんともっと楽しい思い出を作れたんだ……!」
その場に静かに座り込み、静かに泣いていた。
泣き止んだ後、千花が寄り添う形で静かに立ち上がる。
「……わりぃな。変なこと言っちまって」
あの事件の事、一番後悔してるのが加東君だったとは知らなかった。千花も一葉ちゃんも、勿論てるも驚いている。
「大学では楽しい思い出作ってさ、惚気てくれよ!」
加東君の優しい一面を初めて見た私は、この約束を守ることにした。
大学に行ったら絶対にと。
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