第118話
時は流れ、あと数日で卒業式。
今日も二人で奏と一緒にイチャイチャしてた時に、おばさん達に呼ばれ、リビングに向かった。
二人は一緒にリビングに入ると、珍しくおじさんが居た。
「やぁ輝彦君。それに奏も、急に呼んですまないね」
「……お父さん、話って?」
「立話もなんだから、二人とも座りなさい」
言われる通りそのまま向かい合って座る。
「まずは二人とも合格おめでとう。大変だったのによく頑張ったね」
「いえ……支えてくれた奏のお陰です」
なんか改めてこういうの恥ずかしいなと思いながら、奏の手を掴む。
チラッと奏に目を配ると、少し頬を赤く染めて目を細めていた。
「……それでだ。ここから大学に通うとなると時間が掛かる思ってね。私達からのお祝いの印として、大学近くのマンションで二人で暮らしなさい」
「えっ……」
おじさんから言われたのはまさかの同棲だった。
「卒業式が終わった翌日に入居することになってるから、今のうちに荷物をまとめて来なさい。あと輝彦君、君の家の物は既に運び終えてるそうだから奏のを手伝ってくれないか?」
「そ、それは……良いですけど」
動揺が隠せない俺はまるで自分の事のように嬉しそうに微笑むおじさんとおばさん。
奏はなんて思ってるのかな……突然一緒に暮らすって、言われて。
「けど、なんだね?」
「そんないきなり言われても困るというか、なんというか……」
「はっはっはっ!なんだそんなことか。二人は仲が良い上に付き合っている。それ以外に何か理由が必要かね?」
そう思って頂けるのは正直俺は嬉しいけど、いきなり過ぎて心の整理が追い付かない。
俺がそれで悩んでいると、今度は奏が手を繋いできた。
「……てるは嫌?一緒に暮らすの」
「別に嫌って訳じゃないけど……」
奏の繋いでる手が一瞬だけ強くなる。
「……私じゃ嫌?」
「そんなことは、ない……」
頬が熱くなり顔を俯かせる俺。だからなのか、本音が出たのかもしれない。
「……この街を離れたくない」
心の何処かに今までの奏との思い出が消えていくような変な恐怖心があった。
そんな簡単に消える訳ないのに、そう考えてしまう。
「てる……大丈夫。大丈夫だよ」
「輝彦君、奏の言う通りよ?」
「……少しだけ、時間を下さい」
俺はそう言ってリビングを飛び出した。
手を離した時の奏のあの寂しそうな顔が、なんとなく苦しかった。
「一緒に暮らす、か……」
俺はゆっくり時間をかけて、一人で同棲の事を考えた。
一度冷静になって考えると、近い場所に住むのは極普通の事で何もおかしいところなんてひとつもない。
急に言われて混乱してただけで、悩む必要なんてなかった。
「……奏」
後ろを振り向くと今にでも泣きそうな顔をした奏の姿があり、その場で立ち尽くしていた。
だから俺は安心させるように、奏に。
「……暮らそう。一緒に」
ぱぁっと明るくなった奏は力一杯頷いた。
「うん……!一緒に」
俺達二人はさっきの事が嘘のような雰囲気で笑い合った。
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