第117話 奏視点 妹
久し振りにてるの家に行きベッドに飛び込んだけど、えっちな本があって、びっくりして思わず変な雰囲気になってしまった。
蒼衣ちゃんが帰ってきた時は変なこと言ってしまって逃げるように部屋を飛び出した。
と言っても、扉を背にその場に座り込んだだけ。
「……っ」
あの本の表紙が脳裏にちらつき、体がむずむずする。
本当はあの本はてるのじゃないってことぐらい分かってるはずなのに……。
それにあの嬉しそうな蒼衣ちゃんの表情は……妬ける。
「……そういや、いつも喧嘩してたっけ」
そう、あれはまだてるを男の子として意識する前の話。
☆
幼少期。てると同じ幼稚園に通い、ほぼ毎日のように遊んでいた。
だけどひと度家に帰れば、お兄ちゃんっ子の蒼衣ちゃんが出迎える。
「にぃにおかえり!」
「うわっ!びっくりした!ただいまー」
「ぁ……」
それはもう何処にでも居る普通の兄妹。
兄に甘える妹と妹を可愛がる兄、何もおかしいことはないのに何故か取られたと感じてしまった。
だから私はぷくーっと頬を膨らませた。
「むう!ねぇねにぃにはだめ!」
「……むうっ」
妹と友達、そこに差はあれど二人で遊びたい気持ちの方が強かった。
大体は私が先に折れるかてるが止める。というのも蒼衣ちゃんがすぐに泣いちゃうから。
「ふたりともけんかはだめ、なかよく、ね?」
「にぃにがそういうなら……」
「……ごめんなさい」
「さんにんであそぼ!」
私達の手を取って、公園に向かって走り出す。
いつも見たあの背中を二人で見ながら、蒼衣ちゃんと顔を見合わせると、さっきまで喧嘩まがいの事してたのがまるで嘘のように不思議と笑顔になった。
☆
もうあれから十年近く経った今でもその片鱗は見えるけど、あの当時のような喧嘩はしなくなった。
今じゃすっかり友達で、相談に乗ったりする程仲が良くなった。
「ふふっ……」
てるを取り合っていたあの頃を今、思い出し口が緩む。
「奏、あれはその……俺のじゃないからな?」
扉越しに聞こえるてるの声。
「……分かってる。てるだもん」
「良かった……分かってくれて」
その一言が聞けてホッとしたのだろう。
私は立ち上がって扉を開け、ひょこっと顔だけを出す。
「やほー、かな姉」
相変わらずの超ブラコンっぷりに思わずムッとしてしまう私だけど、今日は我慢。
「おかえり蒼衣ちゃん」
受験も終わったし、久し振りにこの三人で遊んでも良いかもしれない。そう思っていた。
あんなに小さかった蒼衣ちゃんの身長はいつの間にか追い越されて、胸のサイズまで負ける私。
「……そうだ!久し振りに三人で遊ばない?ゲームとかしたりしてさ!」
私の気持ちを代弁してくれたかのように提案する蒼衣ちゃんと考え込むてる。
「いいね、それ」
「でしょー?たまにはかな姉とも遊びたいもん」
可愛いこと言ってくれるなぁ……お姉さん嬉しい。
「……まあいいか、何やるんだ?」
「勿論これでしょ!次こそ勝つんだからね!」
そんな二人と今もこれからもずっと一緒に居れることに感謝しつつ、初めて自分から混ざりに行った。
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