第114話 奏視点 合格発表

 千花達と色々と過ごした日から一週間。

 いよいよ待ちに待った合格発表の日で、てるは珍しくそわそわしてた。


「準備、出来た」


 制服姿に防寒着を着込み、玄関で待つてるの元へと急ぐ。


「ほら、早く行こう。早く見たくてたまらないんだ」


「ゆっくり行きたい……ダメ?」


 私としてはゆっくりでも良いと思ってるから、駄目元で聞いてみた。

 でも効果はなかった。


「その……怖いんだよ。俺だけ落ちてるなんて事があったら、本当にどうしよって……」


「てるなら大丈夫」


 私はそっとてるの手を取って微笑む。


「……奏」


「合格してたら……ぎゅーってして?」


「うん、分かった。じゃあ行こうか」


 私達は手を繋いで、志望校として受けた大学まで移動した。





 ☆






 志望校として受けた大学に着くと、思った以上に人が多くて体が固まってしまう。

 それを知ってるてるは、私が落ち着くまでずっと待っててくれた。

 それが一番嬉しくて思わず微笑んでしまった。


「落ち着いた?」


「うん。えへへ」


「じゃあ……行くよ」


 いよいよ掲示板の元へと歩みを進める。

 人が多いことによる恐怖心は思ったよりなく、掲示板に張り出されてる自分の受験番号を探し出す。

 私の番号は『372』で、てるは『735』。


「んーっ!……見えない」


 飛んだりして顔を覗かせるが、全く掲示板が見えなくて思わず怒ってしまう。

 この時程、自分の身長の低さを恨んだことはなかった。

 その為か無意識にてるの袖をクイクイと引っ張る。


「……見えない」


「もうちょっと前行くか……?」


「んっ……」


 てるも見えなさそうだったのを見て、流石に嫌とは言えずにただ頷くことしか出来ない。

 少しだけ人混みの中に入ると、てるはある程度掲示板を見れるのか真剣な眼差しで探して出した。

 私は全く改善されないどころか寧ろ余計見辛くなった。

 それがなんかムカつき、頬がぷくーっと膨れ上がる。


「……あった。やった!あった!俺、ちゃんと合格出来たんだ……っ!!」


 そんなことお構いなしにはしゃいで抱き締めるてる。


「……そうだ!奏はどうだった?あった?番号」


「……代わりに探して」


 不機嫌な私は受験番号の紙をてるに押し付けた。


「ならもう少し待つ?その方が良いと思うんだけど……」


「い、良いから探して……!」


 突然変なこと言い出して、なんか恥ずかしくてかあーっと耳まで赤くなった。

 しばらく待ってると、てるがスマホの画面を見せてきた。


「ちゃんとあったよ。奏のも、ほら」


 見やすいようにか私の番号付近の所をしっかりと撮ってくれたようで、さっきまで怒っていたのが嘘のような感じで嬉しかった。


「……てるっ!」


「……ああ、来年もずっと一緒だ」


「うん……うんっ!」


 嬉しくて涙が流れ、落ち着くまでてるの胸の中で静かに喜んだ。

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