第113話
台所からいい匂いが漂い始め、自然と俺達も笑顔になる。
二人の動きが止まったと同時に声がかかる。
「おまたせー。本当奏って何でも出来るね」
「だろ?」
「誰かとは大違いだな」
それは自分の事かと村瀬は総司に文句言うが、全く聞く耳を持たない。
そんな冗談が言える二人の仲睦まじい姿に、俺も奏も自然と笑顔になる。
高校生になってからずっと一緒だったこの四人も、来月の卒業式でそれぞれの道へ歩み始める。
「じゃあ食べよう。戴きます」
皆小さい頃からの夢を持って、今叶えようと必死に頑張ってるその姿が眩しかった。
☆
昼食を取り終えた俺達は、リビングでテレビを見ながらボーッとして過ごしていた。
奏は俺に体を預けてすやすやと寝てしまった。
「……今日は色々とありがとな」
「こちらこそ。東條は卒業したらそのまま進学だっけ?」
「うん。って言っても合格発表がまだだけどな」
確か来週だったかなと思い、カレンダーを見ると気付けばもう数日後だった。もうそこまで来たのか。
奏がもぞもぞと動き出した。
「んんぅ……すぅ……」
さっきよりも力強く抱きつく奏の顔は何処か安心しきっていた。
「本当、素直だよね奏は。なんかちょっと羨ましい」
「……うん。いつもドキドキさせられてる」
前まではあり得なかった。あんな人前で甘えるなんて姿は。
それだけ奏も変わったんだろうか。
「昔はそんなこと無かったけどね。ずっと俺の後ろに隠れてたぐらいだし」
ふと幼少期の頃を思い出す。
あの頃の奏は今以上に甘えん坊で、時折蒼衣と意地張って俺を取り合うぐらいだったっけな。
「俺は中学からしか知らねえな。小学生の頃、出会ってたっけ?」
「どうだろ……応援には来てくれてたけど」
「単に会うような暇がなかっただけかー」
総司は運がなかっただけかなんて言い出して納得してたけど、村瀬の横顔は何処か寂しそうだった。
「前から聞きたかったんだけどさ……村瀬はこいつの何処に惚れたの?」
「ふぇ?!え、あ……えと……」
急に話を振られたと思ったら、好きになった理由を聞かれて頬を赤く染め上げた。
あんな陽気な性格の村瀬が急に大人しくなるぐらいだから、気にならないわけがない。
「……一目惚れ、そりゃ当時は確かに東條も格好良いななんて思ったけど……それ以上に格好良かったの」
「へえ」
乙女心全開の村瀬に対して、にやつきが止まらない。
「それに東條にはもう奏が居たから、諦めちゃった」
「そうなんだ」
「同じ理由で諦めた人が居て多かったのは驚いたけどね」
その事情を聞いて三人は苦笑。
それでも好きだと伝えに来た人達を尊敬の眼差しで見つめる村瀬だが、総司の隣に座ったと思ったら身を寄せた。
「奏にはだいぶ前に言ったけど、私達結婚するんだ」
「……おめでとうって言った方がいいのかな」
急な結婚報告に、正直言って驚きを通り越している。
「って言っても籍だけどね?ふふっ」
あんな幸せそうな村瀬を見ると、この二人なら難なくやっていけそうな感じがする。
俺も総司みたいに奏と籍だけ入れても良いのかなと思い始めた。
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