第111話

 バレンタインデーから数日が経ったある日。

 いつものように奏とイチャイチャしながら過ごしてると、突然インターフォンが鳴り響いた。


「……誰だろ」


 べったりくっついていた奏は俺の腕を掴みながら、玄関に向かう。

 まるでお化け屋敷に行く時のように。


「やっほー奏」


「……うーっす」


「……なんだ。お前らか」


 突然の来訪者は総司と村瀬。

 総司の手には紙袋があり、村瀬のなにか企んでそうな表情が妙に引っ掛かる。


「……千花は帰って」


「ちょっ!なんでさ!」


「なんかやだ」


 奏が拒絶する理由が子供っぽかった。


「……総司も大変だな。村瀬に振り回されて」


「本当だよ全く……」


「総くんまで?!こっち来るまでは結構ノリノリだったよね?!」


 俺は総司に目でどういうことだと送ると、総司は露骨に目を逸らした。


「はぁ……で、何の用だ?お前らと違って俺らは忙しいんだ」


「ふふーん!この袋はね―――」


「帰れ」


「まだ何も言ってないよ!?」





 ☆






 結局追い返すことは出来ず、強引に家に上がる二人。

 村瀬は奏を連れて別室に拉致られ、リビングは俺と総司の二人。

 久し振りに二人になった俺達は、お互い色々と聞きたいことがあった。


「……ったく、お前って奴は」


「仕方ねえだろ?あいつがやりたいって言い出したんだからさ……」


 総司は呆れ気味に俺に言い放つ。


「だったら止めろよ」


「止めたけど……あいつ、上目遣いで迫ってきやがった」


「あー……」


 なんだかんだで村瀬は女性としてかなり魅力的な容姿をしてるからなぁ……。


「んで、そっちはどうなんだ?同棲生活」


「まあなんとか……蒼衣、俺が居ないからちゃんとやってるのか心配だけど」


「たまにそっちの家行くけど、寂しそうにはしてたな」


 だよなぁ……あいつ極度とは言わないけど、まだ兄離れ出来てねえし。

 たまにはあっちの家に帰るのも悪くはないか。


「千花……!これ、恥ずかしい……」


「良いから良いから……!」


「戻ってくるみたいだな」


 リビングの扉を開けて二人が入ってくる。


「うぅ……っ」


「どう?総くん、似合ってる?」


 彼女達が着替えた衣装は、まさかのメイド服。

 顔を真っ赤にしながらスカートの裾をぎゅっと掴む涙目な奏、ノリノリだがちょっとだけ照れている村瀬の対称的な二人の反応。

 村瀬ははち切れんばかりの胸と赤く染まった頬が良い感じになっている。

 奏に至っては猫耳と尻尾まで付けた猫耳メイド。


「……お、おう」


 総司は村瀬の胸に視線が釘付けで、それに気付いた村瀬は恥ずかしそうに体を抱く。


「も、もう……っ!胸ばっかり見ないで他見てよ……」


 俺はというと……。


「おいで奏」


 てててっと俺の元に近付き、涙目になりながらちょこんと俺の傍に。


「……似合う?」


「最高に似合ってる」


「!えへへ……っ」


 奏は照れ笑いで俺の隣に座って、体を預ける。

 そんな奏を俺は優しく頭を撫でながら奏を本物の猫のように可愛がる。


「ん……っ」


 凄く気持ち良さそうに目を細めて凄く可愛い。


「猫の真似、してよ」


「に、にゃあ……?」


「他はないの?可愛い奴」


 奏は俺の無茶な要求にまるで本物の猫のように驚いて固まってしまう。

 数秒の間固まっていた奏は可愛らしく猫になりきった。

 頬摺りしながら甘えて、もっと構ってと言わんばかりの可愛い声を出す。


「みゃあ」


 もう最高に可愛くて、村瀬は驚き総司は優しい目で俺達を見ていた。

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