第106話

 昼休憩の間に致してしまった俺は、奏に一切口を訊いて貰えずに居た。

 当然昼も取れずに午後の試験を受け終えた。


「……はぁ、何やってんだろうな俺」


 奏は相変わらずだし、腹は減ってて今にも倒れそうだ。


「奏ー」


 いくら呼んでも一切こちらを向いてくれない。

 完全に怒らせてしまった。


「本当ごめんって」


 ほんの一瞬だけこちらを向いた。


「……次から良いって言うまではダメ」


「はい」


「……分かった?」


 今回の件は完全に俺が悪いから、勿論反論なんて出来ない。

 当分の間ダメなのは仕方ないと受け入れるしかなかったが、どうしてもひとつだけ言いたいことがあった。


「分かった。どんなに誘っても我慢する」


「さ……っ!?」


「あれ、違う?」


 顔を真っ赤にして力強く頷き否定する奏。


「今日だってキ―――っ!」


 奏は俺の足を力一杯に踏んづけた。


「し、してない……もんっ」


「だ、だからって踏んづける必要ねえだろ……」


「ふん……っ」


 頬を真っ赤に染めながらも、怒ってるにも関わらず手だけは俺の制服の袖をしっかりと掴んでいる。

 素直じゃねえな、本当。






 ☆







 そして大学試験が終わって数日が経ったある日。

 俺は植村家の両親に再び呼び出された。


「とりあえずは二人とも、受験お疲れ様」


「ありがとう」


「時に輝彦君や、奏と仲良くしているかな?どうも最近奏は輝彦君を避けてるように見える」


 そう、あの日を境に最低限の挨拶しか交わしていない。

 だけど寝る時だけはいつも一緒なのが、俺としても不思議だ。


「……でも寝る時だけは一緒なんですよね」


「そうなのか?」


「はい、どこに行ってるのか聞いても全然応えてくれなくって……」


 完全に嫌ってるならそもそも一緒に寝るどころか、俺の家に強制送還されるはずだし。

 反応を見る限りおじさん達も知らないから、どこに行ってるのか分からないのが凄く引っ掛かる。


「そういえば……」


「ん?奏の事で何か知ってるのか?」


「えぇ……あの子、病院で見掛けたわ」


 病院……?


「奏、どこか悪いんですか?」


「悪いというかなんというか……私にもよく分からないのよ。親なのにね」


「そう、ですか……」


 奏が病院……もしかして、いやいやそんなはずは。


「……やっぱり心配?あの子の事」


「はい……本当にどこか悪いとしたら、俺……」


「大丈夫、その内いつものようになるわ」


 でもやっぱり俺は……どうしても受験日の時の事が頭から離れなかった。

 もし出来ちゃったとかになったら……どうすればいいんだ?俺まだ学生の身だぞ?

 奏……。

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