第105話

 篠原さんの死から二日程経ち、俺と奏は病院に設置された墓地に来ていた。

 この病院で亡くなった身寄りの無い人達のために作られたそうで、篠原さんの前に花を供えて二人で手を合わす。


「……本当にありがとう。君が居なかったら、俺は更に奏を悲しませてたかもしれない」


 言葉にするには少なすぎるが、俺としてはこれ以上の言葉が出てこない。

 それでもこれで十分だと思った。


「てる」


「じゃあまた来るよ、今度来る時は合格発表かな」


 それだけを言い残してこの場を去ろうとした時、何処かから声が聞こえたような気がした。

 また来てね、待ってるよと。


「今日もご指導の程よろしくお願いします奏さん」


「……本番までみっちり教える」


 冷たい風が俺達に襲いかかる。篠原さんが茶化しに来たのかと思うぐらいに。


「さっさと帰ろうぜ。受験前に風邪なんて引いたら終わりだしな」


 本当に久し振りに奏と並んで手を繋ぐ。

 奏は幸せそうな表情を浮かべて、終始傍を離れるどころかべったりだった。





 ☆






 そして当日。

 久方振りに制服に袖を通し、受験会場まで二人で仲良く向かう。

 何事もなくイチャイチャしながら、到着した俺と奏は受験会場に向かう。

 やはり人が多くて、奏は俺の傍から一方も離れなかった。


「ふぅ……もう大丈夫だぞ奏」


「……じゃあ、お昼に」


「ん、そっちも頑張って」


 奏は俺がそういうなんて思ってなかったのか、驚いた表情を浮かべた後真っ赤になって俯いた。

 赤くなって俯いている奏の手が、俺の袖をちょこんと掴んで引き留められる。


「どうした?」


「てるも……頑張って、ね」


「……っ」


 真っ赤で上目遣い、更には目が潤んでる。

 その姿が余りにも可愛くて、俺は慌てて顔を逸らした。


「お、おぅ……」


 ぎこちない空気が俺達を包む。


「……そ、そろそろ行くね」


 奏は俺から逃げるように奏は人混みの中に消えていった。





 ☆






 午前の試験が終わり、午後の試験のために俺を含む受験生は一時昼休憩を取ることに。

 奏が廊下で待ってるとメッセージが来たから、荷物を纏めて廊下に向かった。


「お疲れ」


「てるも……ふふん」


「上機嫌だな。そういや結局あの後どうだったんだ?」


 奏の動きがピタッと止まる。


「奏?」


「~~~っ!バカバカ!てるのバカ……!折角忘れられたのに……」


 その割には心なしか嬉しそうにしてますけど……?なんて言えるわけもなく。


「……ごめん」


 俺は謝る事しか出来なかった。

 だけど奏には不服だったようで、ぷくーっと頬を膨らませていた。


「どうしたら許してくれるんだ?」


 辺りをチラチラ見渡してから、普通だと聞こえないような小さな声で。


「……キス」


 とだけ、言い放った。

 俺は奏の腕を掴み、人気が一切無い場所まで連れて奏の唇を奪う。


「……てる、好き」


「俺も」


 なんか大人な恋をしてるみたいで、いろいろと興奮してお昼休憩なんか忘れて最後まで致した。

 それぐらい奏が可愛くて愛おしくて、完全に理性を失ってしまった。

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