第104話
目覚めた時、目の前に写ったのは真っ白な天井と奏の顔だった。
暫くの間、奏と見つめ合ってると徐々に奏の頬が真っ赤に染まって、頬を膨らませながら目を逸らされた。
「見てるだけで真っ赤になるなんて」
「……むうっ」
プイッと完全に逸らされて、栗鼠みたいに膨れていた。
奏の可愛さをもっと堪能していたいけど、聞かなくてはならないことがあった。
「そういや奏、手術どうなったの?」
「成功したって、お母さん言ってた」
「そっか……良かった、のかな」
手術は無事成功したとはいえ、まだ不安は残っている。
再発はないのか、俺の人生は余命通りのままなのかと……それに。
「……受験、来週じゃん」
こんな時期に手術をする羽目になるとは……馬鹿だろ過去の俺。
でもまあ、突然あんなこと言われたら無理もないか。
「てるなら……大丈夫」
「退院、いつになりそう?」
「えと……今週末」
もうしばらくはこのままと。
俺はジーッと奏を眺めてると、今度は俯いてしまった。
「は、はずか、しい……み、ないで……」
「なんで?」
「な、なんでって……うぅ……分かってる癖に……」
こんな可愛い彼女に、ついつい意地悪をしたくなる。
「言ってくれなきゃ分かんない」
「っ!もう知らない!!」
ついに奏は立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
やりすぎちゃったかな……?でも反応が可愛いから分かっててもやってしまう。
難しいな、その辺の加減具合が。
「奏、怒って帰っちゃったかな……」
結局、あのまま戻ってこない奏が心配になった。
☆
そして退院当日。
奏の姿はなかったけど、それでも盛大に祝って貰えて嬉しかった。
あの時一緒に話をした例の女の子もわざわざ来てくれた。
「あの時はありがとう。色々と相談に乗ってくれて」
「ううん、すっかり元気になって良かった」
彼女は微笑んでいたけど、すぐに表情が曇った。
「……どうしたの?」
「なんか寂しいなって……また一人になっちゃうから」
「そっか」
すると彼女が近付いてきて、目線に合わせるためにしゃがむと耳元で囁いた。好きだよと。
「じゃあまたね!」
そのまま彼女は病院の中へと姿を眩ました。
「あの子の名前……結局知らないままだったな」
またいつか、どこかで彼女に出逢えるだろう。
そんな気持ちで病院を後にした。
後日彼女は先生や看護師さんらに見守られながら、静かに息を引き取ったらしく、最期に書き綴った彼女からの手紙を貰って、一人で読んだ。
『東條輝彦君へ
この手紙を読んでるということは、私はもうこの世には居ないと思います。
本当はね、輝彦君の事知ってたの。貴方が秋頃に記憶喪失でいろんなとこを散歩してた時に遠くで見てたの。
最初は格好良い人だなーぐらいだったんだけど、この間話をしてもっと話したい、もっといろんな事知りたいって思ったけど、そうさせてくれなかった。
この手紙を書いてる日も本当は遊びに行きたかったけど、無理しちゃ行けないって先生に止められちゃった。
最期に私の名前は
もし生まれ変われるなら、輝彦君と彼女さんの間の子供になりたいな?なんてね。
貴方達二人の幸せを祈りながら、私は向こうに旅立ちます。
篠原藍華より。』
俺の目には大量の涙が溢れて、彼女の事を思えば思う程涙が止まらなかった。
なんでこんな優しい子が死ななきゃならないんだと。
神様は時に残酷なことをするとは言うけれど、それにしてはこの結果はあんまりすぎるだろ……。
「篠原さん……貴女の分まで、しっかり生きるよ……」
俺は彼女の死を無駄にしたくなかった。
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