第102話
急な余命宣告を受けた俺は、あんなに必死にやっていた勉強を辞め、毎日外の景色を眺めるだけ。
それは家族が来ても、友達が見舞いに来ても、一緒だった。
「はぁ……」
俺の心は日に日に荒んでいき、塞ぎ込む日々が続いた。
それでも奏だけは違った。
どんなに俺が酷い状態でも、酷いこと言っても決して俺から離れることなく、いつものような調子で接する。
「てる、ご飯食べないと……」
それが何より辛くて、逃げ出したかった。
でもそうはさせてくれない。
「……いらない」
なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだという意識が何より強かった。
☆
世間は今はバレンタインムード、近くの看護師らの会話から相手がどうとかの話が聴こえてくる。
(俺はどうせ……永くないんだ)
死の恐怖と絶望に呑み込まれている俺は、文化祭の時に殴ってきた犯人がかなり憎かった。
でも俺は犯人の名前も顔も知らないし、やり場のない怒りをぶつけられなくて悔しかった。
「おにーさん、そんな格好じゃ風邪引いちゃうよ?」
俺は声がする方へ振り向くと、俺と似たような感じの人が話しかけに来た。
見た感じ、俺とそこまで変わらない歳。
「……放って置いてください」
「あれ?どっかで見たような……そういや、いつも隣に居る女の子は?」
「……彼女なら家」
「ふーん、喧嘩でもしたの?」
喧嘩なんてものはしてない。そういう意味を込めて小さく横に振る。
「そっか、いいなぁ……貴方にはそういう人が居て」
急に彼女の声色が変わった。
「……私ね、事故で身内居ないんだ。でもって体も弱いからずっとここで過ごしてるの」
そんな彼女は悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべた。
「そういや、おにーさんはどうしてここに?」
「……手術の為」
「手術?どこか悪いの?そんな風には見えないんだけど」
やけにぐいぐい来るな、この子。
「脳がどうとか……」
「そうなんだ、大変だね」
俺のすぐ隣にまで来て、明るく振る舞っている彼女が少し気になった。
「いつも一緒に居る女の子って、妹さん?それとも友達?」
いつも一緒に居る女の子……奏の事か。
「幼馴染で彼女」
「そうなんだ!彼女さんすっごい可愛いもんね!」
「そう、だな……」
俺は力無く応えた。
奏が褒められてることぐらい分かってるけど、いつものように誇れなかった。
「学校ってどんなところなの?」
「楽しいところ、いろんな人達が居て飽きないよ」
「へぇ、一度で良いから行ってみたかったなぁ」
その後も色々と話をしていたら、二人揃って看護師さんに怒られた。
部屋に戻った俺は看護師さんに彼女の事を聞いてみた。
彼女を蝕んでる病の進行が思ったより早く、俺のように長くは生きていけないらしい。
「あの子も……大変なんだな」
それに比べて俺はどうだ?手術を施せば簡単に治せる。
だけど……俺の場合は脳だから下手をすれば、体の負担は考えた以上のものになるはず。
でも生きたい、奏と一緒に幸せな毎日を送りたい。
それなのに俺は……。
「……逃げてばっかり」
あの子のように強くはない。それがどこかで羨ましいと思い始めた。
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