第100話

 目覚めた時、また真っ白な天井だった。

 聞き慣れてしまった定期的になる電子音、どうやら俺は生きているようだ。


「てる……!」


「……お兄ちゃん!分かる?!私だよ?!蒼衣!」


「あの時とは……違うっての……」


 まだ頭がふわふわしてて、寝ているのか起きてるのか分からない。

 でも確かに奏が握られた小さな手の感触は伝わっている。


「頭ん中……気持ち悪い……」


 人工呼吸器がなかったら、呼吸すらキツイ状態。


「……ごめんなさい、輝彦君。私のせいで……」


「おば、さん……そんな顔……しないで、ください……」


「一週間程入院して貰うけれど……良いかしら?」


 俺は小さく頷き、奏の手を離さないように、なるべく元気に見せた。

 一週間かぁ……受験どうなっちゃうんだろうな俺。






 ☆







 入院してから数日が経ち、気持ち悪かった頭の中も薬と点滴のお陰もあって容態が安定し出した。

 毎日のようにお見舞いに来る奏と一緒に勉強しながら、時にはいちゃついたりもした。


「悪いな、何もかもしてもらっちゃって」


「……こうなっちゃったのも、半分は私のせいだから」


 やっぱりまだ奏はあの時の事を根に持ってるのか、かなり表情が暗かった。


「なあ、奏」


 俺は奏を呼び、こちらに向いた所に奏の唇を無理矢理奪い、離そうとすると離れたくないかのように奏が押し付けてくる。

 キスをすると今まで考えてたことが全部真っ白になる。


「ぷはぁ……んんぅ……」


 奏を求める俺、それに応えるかのように奏は無我夢中でキスをする。

 凄く幸せなひととき。


「ぷは……っ、ねえてる」


 奏の目は完全に蕩けていて、頬もほんのり赤い。


「なんだ?」


「大好き……っ」


 ベッドにいる俺に抱き着いた。

 それと同時に柔らかな感触があり、奏の胸がちょっとだけ押し潰されていた。

 肩から見える紐みたいなのはブラ……?あれ、前見た時はもう少し小さかったはず……。


「奏って……ちょっと大きくなった?」


「……えっち」


「し、仕方ないだろ……!男なんだから……」


 俺は思わず顔を逸らす。


「お母さんみたいになってる?」


「まあ、村瀬程でないにしろ……大きいと思う……」


「……むうっ」


 村瀬の名前が出た瞬間、奏の顔は一気に不機嫌になりぷくーっと可愛らしく頬を膨らませた。

 なんでここで村瀬の名前を出したのか、自分でも良く分からない。


「……んー!」


「分かった……分かったから落ち着いて」


 少ししてから奏は落ち着いたが、俺から離れようとはしなかった。

 それがなんだか親に甘える子供っぽくて、つい頭を撫でてしまう。

 気持ち良さそうに目を細める奏は本当に可愛い。


「退院、出来ると良いね」


「そうだね、受験もうすぐ始まるし」


 退院から一週間過ぎるといよいよ大学受験。

 この先俺の体がどうなるのかは分からないけど、まずは目の前の目標に向かって頑張るしかない。

 そして無事に合格したら……改めて奏に自分の想いを伝えるんだ。

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