第99話 奏視点 覚悟

 てると一緒に病院に行った後、お母さんに検査結果を聞く為に別室に呼び出された。

 ある程度は覚悟してるけど……それでもやっぱり怖い。

 私のせいでてるが死んじゃったらと考えたら、たとえ無事だとしても素直に喜べない。


「二人とも座って。それで輝彦君、その後頭の方は大丈夫だった?」


「え、えぇ……特にこれといった事は……」


 てる自身はそこまで悪いとは思ってないようだけど、少しだけ息が上がってて、今日に限ってはいつもの覇気がなかった。


「……そう。今日と明日は安静にして欲しいのと、明後日にもう一度診るわ。じゃあ輝彦君、一旦席を外して貰えるかしら?」


 お母さん?何言ってるの?今にでも倒れそうなんだよ?!


「ごめんなさい、二人きりで話がしたいの」


 そんなことは後でも良い!てるが……!


「まあ、そういうことなら……じゃあ奏、終わるまで待ってるよ」


 てるがそういうなら……でも、やっぱり心配。


「ん、分かった」


 でもこの時、無理にでも引き留めておけばと後悔した。





 ☆






 てるが部屋を出た後、お母さんは優しい顔から一変して険しい顔に変わった。

 私になんて言うのか、てるに隠しておかないといけないことなのかと。


「……単刀直入に言うわ。輝彦君、もう永くは生きられないと思う」


 えっ……?それってどういう……こと?


「……文化祭の事、憶えてる?」


「う、うん……」


 今でも思い出したくないぐらい嫌な事件。

 あの後の事ははっきりと思い出せないぐらい、取り乱していたから。


「今回はそこまで酷くはないけど、あの時のと似てたの」


「てるが……死ん、じゃう……の?」


「……私だって救ってあげたい。あなたの大切な、大事な人だってことぐらい分かってる。もし何かあっても私が絶対に救うわ」


「お母さん……」


 でも私はてるが永く生きれないことに、ちょっとした絶望感があった。






 ☆







 その後は詳しい結果を聞いて、てるが待つ待合所に向かおうとしたのと同じ時。

 てるが倒れて、意識が混沌としていて、お母さんが真っ先に駆け寄り看護師さんらを呼び集めながら応急措置を取っていた。


「輝彦君!聞こえる?!しっかりして……!」


 私は何が起こってるのか、理解したくなかった。

 でも嫌でも理解させられてしまう。


「てる、が……死ん、じゃう……?や、だ……やぁ……っ!」


 私のせいだ……私のせいでてるが……てるがぁ……!


「この子をオペ室に運んで!早く!!」


 そのままてるは目の前から居なくなって、緊急手術。


 騒ぎを駆けつけた蒼衣ちゃんとおばさん、そしてお父さんが手術室前の椅子で力失く座ってる私の元へ。

 お父さんかおばさんか分からないけど、隣に来て私を優しく抱き締めてくれた。


「私のせいで……てるが……てる、が……」


「……かな姉」


「大丈夫……あの子はそんな子じゃない。今は椿の腕を信じましょう」


 椿、私のお母さんの名前。

 お父さんは名前では呼ばない、ということは今隣に居るのはおばさんか……。


「ごめん、なさ……っ」


 さっきと待ったばかりの涙がまた流れた。


「よしよし……」


「……お母さん、手術終わったよ」


 どうやら手術は終わったらしく、中からお母さんが出てきた。


「椿、あの子は……」


「大丈夫よ、ちゃんと生きてる」


「そう……」


 良かった……てるが助かった……生きてた……。


「ただ、脳が思った以上に損傷してて……今まで通りの生活は出来ないかもしれないの」


 今の私はそんなことはどうだって良かった。

 てるが生きてることが何より安心出来ることだから。

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