第98話

 そのまま病院に連れていかれた俺は、奏のお母さんによって検査され、検査結果が出るまで奏と共に待合所で待っていた。

 なんともないはずなんだけどな……。


「どうして病院なんかに連れてきたんだよ?別になんともなかったじゃん」


「……お母さんに言われたの。てるがまた頭を打ったりしたら連れてきてって」


「それでか……」


 何となく言いたいことは分かった。


「なんかごめんな、俺のせいでこんなことになって」


「んんっ……てるは悪くない。悪いのはあの時てるを殴った犯人」


 俺は殴られた事件の日の事が曖昧で、あの時に何が起こったのかを聞いても誰も教えてくれなかった。

 あの蒼衣ですら、話してはくれなかった。

 ただ今なら聞けるかもしれない。


「なあ――」


「ごめんなさい。遅くなって」


「……お母さん」


 タイミング悪くおばさんがこちらに来てしまって、遮られてしまう。

 そんな俺の顔を見ると優しい口調でこう言った。


「大丈夫よ。そんなに心配しないで」


「あ、いえ……そういうことじゃなくて」


「あら、そうなの?じゃあ私もそんなに時間もないから着いてきて」


 俺達はおばさんの後を追い、とある一室に入った。


「二人とも座って。それで輝彦君、あの後頭の方は大丈夫だった?」


「え、えぇ……特にこれといった事は……」


「……そう。今日と明日は安静にして欲しいのと、明後日にもう一度診るわ。じゃあ輝彦君は一旦席を外して貰えるかしら?」


 どうして俺だけ……?


「ごめんなさいね、二人きりで話がしたいの」


「まあ、そういうことなら……じゃあ奏、終わるまで待ってるよ」


「ん、分かった」


 俺は呼び出された一室から出て、近くの待合所で暫くの間待つことになった。






 ☆






 俺が部屋を出てから数十分が経過した時、少し頭がボーッとして息が上がる。


「奏、まだかな……」


 (村瀬とかいいんちょ、今頃何してんだろうな)

 

 少しずつ気持ちが悪くなり、その場で横になると痛みは引いていったけど目の前がぼやけ出す。


「はぁ……っ、はぁ……っ」


 (そういや総司は大学でも野球やるのか、聞いてないな)

 

 なんか……やべえ、頭が……。


「――る!――て!て――!」


 耳鳴りが酷くて何言ってるのか、わかんねえ……。

 辺りが騒がしくなってるのは分かるけど、何がどうなってるのか分かんないや……。


「――ました!―――!心拍―――」


(あぁ……なんか、眠たい……。奏と……もっと……いろんな事、したかったなぁ……)


 俺は騒ぎの中心の居ることも忘れて、意識を手放した。

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