第95話 奏視点 小さな不安と大きな覚悟
最終日の前日にあたる昨日、私はお父さんとお母さんが帰ってくる時間まで起きてみた。
お父さんは特に気にしてなかったけど、お母さんは異変に気付いたようでお父さんが居なくなった時に話しかけてきた。
「……珍しいわね。こんな時間まで起きてるなんて」
眠たくないと言えば嘘になる、でも頑張って起きてる。
「えと……お母さん達に、言いたいことがある、の」
眠気で呂律が上手く機能しないけど、それでも勇気を出して伝えた。
怒られると反射的に思った私は、下に俯いてしまう。
「何かあったの?……まさか輝彦君と喧嘩でもした?」
私は勢いよく頭を横に振る。喧嘩なんてしない、もん……。
「てると……一緒に、なりたい」
「あれ?二人は付き合ってるんでしょ?どうして一緒になりたいだなんて……あぁ、そういうこと」
あの一言で全てを察するお母さんはやっぱり凄い。
「そういうことならお母さんに任せなさい!」
そう言って私を部屋に連れていき、限界に来ていた私はベッドに横になった瞬間、意識を手放した。
☆
そして今日、朝お父さんが急に緊急家族会議とか言って何故か私の家に集まることになってた。
暫く待ってるとてる達がやってきて、親対子の対面になっていた。
その後は良く分からない茶番劇で、あっさり一緒に住む事を許可してくれた。
認めてくれた事よりも、今はてると一緒に過ごせることが一番嬉しかった。
色々あっての夕方。
お父さん達は仕事ですぐ居なくなって、蒼衣ちゃんはちょっと寂しそうにしながら、おばさんと一緒に家に帰っていった。
「……認めて貰えたのは良いけど、呆気なかったな」
「うん……怒られるのかなって思った」
あのお母さんのことだから、真剣に悩んでくれたのかなって思ったら案外そうでもなかった。
まるでこうなることを最初から分かっていたかのように……。
「でも、ちゃんと住むのは卒業後」
てるが言い放ったこの言葉が、私はちょっとムッと来た。
「むう!」
なんで駄目なの。
「可愛く言っても駄目なものは駄目なの。まだ部屋すら決まってないのに」
「……むう」
事実だけど、そんなことは今はどうでも良いの。
「その前にちゃんと大学合格しないと、だけどな」
それもそうなんだけど……!分かってないなぁ……!
「……今日も甘えん坊モードか?いや、お拗ねモード?」
てるはふざけ気味に聞いてきて、それが頭に来て反対側を向く。
「ごめんてば」
「……意地悪しないで」
素直に謝ったから変に意地張るのは止めたけど、てるはジーッと見つめてくる。
「て、てる……?」
ドクンッ――ドクンッ――。
急に胸の鼓動が速くなり、周りの音が聞こえなくなり、慌てて目を逸らす。
「本当、可愛すぎんだろ……お前」
「か、かわ……っ?!」
か、可愛い……?!うぅ……恥ずかしいよぉ……。
でも……それと同時に嬉しくもあり、頬がだらしなく緩む。
「……絶対に合格しような」
それはてるの覚悟でもあり、頑張らないと不合格になりそうという不安。
それは私も同じで、絶対に同じ学校に行くんだという意味も込めて背中まで腕を回して抱き締める。
「う、うん……」
明日は三学期。
受験が終わったら、バレンタインがある。
「……大好き」
てるに聞こえないぐらいの声量で気持ちを告げ、もう離さないと言わんばかりに力を込めた。
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