第94話
時は流れ、冬休み最終日。
今日は東條家と植村家による緊急会議が執り行われ、親と子で分かれて対面する形になった。
何故こんなことになったのかは、先日の一件だ。
「……本当にお前達二人だけで一緒に住むのか?」
「俺は卒業後のつもりなんですけど、奏がどうしてもと」
「君には聞いてない。今は奏と話しているんだ」
……やはり現役社長なだけあって、凄い威圧感が出ていて簡単に一蹴される。
でも奏は、全く怯まない。
「……うん。てると一緒に住みたい」
奏とおじさんによる睨み合いによって、場の緊張感が高まり俺の心臓は今まで経験したこと無いぐらい激しく動いている。
だけど、その緊張感をぶち壊したのは呑気にお茶を啜っていたおばさんだった。
「……別に良いじゃない。何意地張ってるのよ?みっともない」
「一度やってみたかっただけなんだから良いじゃないか。あの輝彦君が奏と一緒に暮らすんだぞ?」
その言葉を聞いた奏は顔を真っ赤にして、顔を俯かせた。
「……なんかごめんなさいね?」
「いやー面目ないね。さっきも言ったけど、娘が出来た時から一度やってみたいなぁって思ってたんだよ」
なんだこの茶番は……。
「……父さん、知ってたの?」
「まあ、な……昔からこういう奴だって事は」
「ふふっ……楽しかったわぁ」
母さんは能天気というかなんというか……はぁ。
「……最初からこんな会議要らねえじゃん」
「わっはっはっ!奏の事、宜しく頼むよ!輝彦君!」
そのまま俺達子供は残され、両家の両親はこの場を去った。
「……まあ、認めて貰えて良かったね?」
「蒼衣は知ってたのか?この結果になること」
「私が知ってる訳無いじゃん!ここに居る誰よりも一番驚いてたもん!!」
てことは……奏も?
「……知らない。断られるって思ってたから」
子供達だけが知らないってどういうことだよ全く……。
☆
その日の夕方、当分の間は植村家で奏と一緒に生活することになった。
「……認めて貰えたのは良いけど、なんか呆気なかったな」
「うん……喧嘩するかなって、思ってた」
「でも、ちゃんとするのは卒業後」
流石にまだ高校生で同棲はまずいから、奏にそう言い聞かせようとするがやっぱり嫌がった。
栗鼠のように頬を膨らまして可愛く睨む。
「むう!」
「可愛く言っても駄目なものは駄目なの、まだ部屋すら決まってないのに」
「……むう」
「その前にちゃんと大学合格しないと、だけどな」
まだ納得いってないのか、表情は変えず腕に絡み付く。
「……今日も甘えん坊モードか?いや、お拗ねモード?」
ふざけ気味に聞いてみたら、軽く睨まれてプイッと反対側を見た。
腕に絡み付いたまま。
「ごめんてば」
「……意地悪しないで」
今度は涙目上目遣いで訴えてきて、俺は奏を抱き締めた。
「て、てる……?」
「本当、可愛すぎんだろ……お前」
「か、かわ……っ!」
まっすぐ好意的に伝えられるのは慣れてないらしい。
もう半年は経ってるのに、まあ俺も人の事は言えないけれども。
「……絶対に合格しような」
「う、うん……」
明日からはいよいよ三学期。
まずは目の前の受験を無事に終えないと何も始まらないしな。
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