第92話 奏視点 不安定な心2

 昔てると蒼衣ちゃんの三人でよく遊んだ公園に着いた私は、ぽつんと佇むベンチに腰かける。

 座った瞬間、我慢していたものがブワッと出てきた。


「ぐすっ……ひぐっ……」


 拭っても拭っても溢れ出てくる涙と締め付ける胸の痛み。


「どうしたの?奏ちゃん?」


 懐かしい声がする。

 見上げると一葉ちゃんが居て、買い物帰りなのか買い物袋を持っていた。


「……一葉ちゃん」


「走ってくのが見えたから、東條君と何かあったの?」


 私は大きく頭を振った。


「……なにか悩み事?話ぐらいは聞くよ?私で解決出来るかは分かんないけど」


「……だい、じょぶ」


「そんな訳無いでしょ。だったらなんで泣いてるの?」


 自分でもなんで泣いてるのか分からないから、なんて言えばいいのかが分からない。

 それに分かったとしても、迷惑を掛けたくなかった。


「かな姉……!良かった……ここに居たんだ。もう心配したんだから!」


「……蒼衣、ちゃん」


「えっと……二人とも知り合い?」


 一葉ちゃんは私に聞くと、小さく頷く。


「でも、奏ちゃんって……妹居たっけ?」


「てるの……妹」


「えっ……?!」


 驚きの余り買い物袋を落としてしまい、中に入ってた物が辺り一面に散らばり、三人で慌てて集める。


「東條君、妹さん……居たんだ」


「むっ……」


「もう取らないってば……きっぱりとフラれちゃったし」


「あのー……」


 蒼衣ちゃんは疎外感のせいか、ちょっとだけ不機嫌だった。

 私もあんな感じなのかな……?


「自己紹介がまだだったね。私は長谷川一葉、お兄さんと奏ちゃんと同じクラスメイト兼奏ちゃんの友人兼元生徒会長です。」


「ど、どうも……蒼衣、です。」


「奏ちゃんがなんでこうなったか、聞いてもいいかな?友達として力になりたくて」


 蒼衣ちゃんは事細かく一葉ちゃんに私がこうなった経緯を説明してくれた。

 本当なら私が言うべき事……。


「……成る程ね。それで泣いちゃったと」


「はい、呼んだのがいけなかったんでしょうか……?」


「ううん、それはいいのよ。奏ちゃんはずっと独りだから余計に寂しかったんでしょ?」


 三度目の頷き、分かってるはずなのに……。


「もういっそのこと、二人一緒に暮らすってのはどう?」


「二人、一緒に……」


「御両親がなんて言うか分からないけど、でもずっと寂しい思いするよりは良いんじゃない?」


 てると一緒に、暮らす……。一緒に……。


「あ、かな姉湯気出てる!顔あっつ!!」


 て、てりゅと……一緒に……はうっ!


「だ、駄目……!わ、わた……しが……もた、ない」


「じゃあ今までのまま?」


「それ、は……で、でも……!」


 そんなこと許されるわけがない。

 まだ学生の身で、そ、そんない、一緒に暮らすだなんて……。


「てるが……断るかも」


「そんなことで俺が断る訳ねえよ」


 えっ……?


「お兄ちゃん?!勉強は!?」


「奏の事が気になってさ」


 そのままてるは私の傍に来て、目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。


「大学受かったら俺は一緒に暮らすつもりしてたし。速いも遅いもないし、あの親父達なら二つ返事で承諾するって」


「で、でも……」


「俺と一緒に住むのは、嫌か?」


「……嫌じゃ、ない」


 てるは優しい顔で頭を撫でてくれた。

 なんかもう悩んでることが小さく思えて、何バカなことを考えてるんだろうと思った。


「……えへへ」


「なんか悪い蒼衣、いいんちょ」


「ううん、解決出来て本当に良かった。あといいんちょは止めて」


「分かったよ、


 何故か一葉ちゃんの顔が真っ赤に染まって、てるを睨む。


「……浮気はめっ」


「名前呼んだだけ……って痛い!耳を引っ張るな!」


 むう……っ!てるは私の物だもん!誰にも渡さないもん!

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