第91話 奏視点 不安定な心1

「はぁ……」


 いつものように朝起きて顔洗って、ご飯を食べる。

 だけど、いつもと違うのは朝は両親が居ないこと。


「……てる、会いたいな」


 いつも一緒に居てくれたてるも、最近は受験勉強で忙しくなり、会う頻度が二日に一回ぐらいになった。

 そのせいかは分からないけど、何もやる気が起きない。

 この不安定さは高校受験の頃以上のもので、てるが居てくれないと駄目になってしまった。


 連絡を取ろうと思いスマホを触っていたら、電話が掛かってきた。


「もしもし……」


『おはよーかな姉、今日時間ある?ないなら日を改めるけど』


 まさかの蒼衣ちゃんからだった。

 蒼衣ちゃんからの電話で、なぜか私の心の中でてるに会えるかもと淡い期待を抱いてしまう。


「……いいよ。すぐ行く」


『へっ……?ちょっとかな姉?!』


 私は部屋着から外出用の服に着替え、東條家に向かった。





 ☆





 東條家に着いた私は、いつ振りか忘れたインターフォンを震えた指で押す。

 誰かが慌てて降りてくる音が聞こえた。


「もう!別に来ること無いのに……」


「……ごめん、なさい」


「怒ってないよかな姉、心配しちゃっただけだから」


 私は家に上がり、てるの部屋を素通りしていって蒼衣ちゃんの部屋に入る。

 前を通りすぎただけなのに、何故か胸が少しだけ苦しかった。


「……かな姉、お兄ちゃんと何かあった?」


「へ……?」


「いやお兄ちゃんの前の部屋を通りすぎただけなのに、表情暗くなってるから喧嘩でもしたのかなって……」


 てるといい、蒼衣ちゃんといい、なんで分かるんだろう?


「なんで?って思ってるでしょ?そりゃあ小さい頃からよく見てるから流石に分かるよ。かな姉のこと」


「……そっか」


「で、何かあった?」


 小さく頭を横に振り、てるの部屋の方向を見る。


「……寂しいの?」


 私は小さく頷き、少しだけ泣きそうになる。


「私も一緒。最近は部活でしかたっくんと会ってないから寂しいんだ」


「……ずっと一緒だって言ったのに」


「でもお兄ちゃんにも夢が出来たんでしょ?その為にも応援しようよ?」


 分かってる。

 頭では蒼衣ちゃんの言い分が分かってるのに、余計に寂しい思いが強くなってしまう。


「……っ!」


 私はすぐそこにてるが居ると思うと、我慢が出来なくて部屋を飛び出す。

 蒼衣ちゃんの静止の声を聞かずに。


「てる……入るね」


 扉を開けるとやっぱりてるが居て、荒んだ心が徐々に癒されていく。

 でもてるはこっちを向いてくれなかった。


「むう……」


 私は気付いて欲しくて肩を叩く。


「……奏?なんで怒ってるの?」


 気付いて貰えなかったことにちょっとだけ頭に来てそっぽ向く。ちょこんと袖を摘まんで。


「奏?」


「……てるのバカ」


「へっ……?」


 違う。言いたいのはそんな言葉じゃない。

 咄嗟に出た言葉とてるを困らせてしまったこと、勉強の邪魔をしてしまった自分に腹が立ち、今度は落ち込んだ。


「本当にどうしたの?」


 てるは何も悪くないのに……。


「……なんでも、ない」


 邪魔だと思った私は部屋を飛び出し、ちょうど部屋を出た蒼衣ちゃんと鉢合わせ。


「……帰る」


「ちょっとかな姉……!」


 頬に何か流れてる気がするけど、目にゴミが入っただけ。

 そのまま家を飛び出し、私は公園に寄ってベンチに座り込んだ。

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