第90話

 初詣も終わって数日が経った頃、もうすぐ三学期で受験日が近付き、前以上に勉強を頑張っていた。

 それは奏も同じで二日に一回の頻度で会う程度になった。

 別れ際のあの悲しそうな寂しそうな表情を見るのが本当に辛く、さっさと終わってくれと何度も考えた。


 そんなある日、休憩がてらにキッチンへ向かってると突然インターフォンが鳴り響いた。

 慌てて駆け降りてくる我が妹、蒼衣の姿が目に入った。


「はーい」


「蒼衣、貴之か?」


「違うよ、かな姉」


 奏が蒼衣に……?一体何の用があるんだろうか。

 俺はそれ以上は追求せず、そのままキッチンに向かってココアを作り自分の部屋に戻る。

 スマホにイヤホンを差して音楽を聴きながら、勉強に集中する。






 ☆






 さっき作ったココアも無くなり、集中力も切れそうになりながら勉強している時に誰かに肩を叩かれた。

 叩かれた方へ振り替えると、そこに居たのは蒼衣に会いに来たはずの奏だった。

 なにか凄く不機嫌で、栗鼠のように頬を膨らませて睨まれた。

 突然の事で固まってた俺は、慌ててイヤホンを外す。


「……奏?なんで怒ってるの?」


 俺がそう聞くと奏はプイッと後ろを向いた。


「奏?」


 後ろを向いたは良いけど、ちょこんと摘まんでるこの手は何なんだ……?


「……てるのバカ」


「へっ……?」


 本当に突然過ぎて呆気に取れてると、奏は溜め息に近いような感じで小さく息を吐いた。

 今度は酷く落ち込んでいた。


「……本当にどうしたの?」


「……なんでも、ない」


 奏は掴んでいた手を離して俺の部屋を出た。


「…………本当に何なんだ?」


 奏を怒らせ、更に落ち込むような表情を浮かべていた原因が何なのか、全くと言って良い程心当たりがない。

 イヤホンで音楽を聴いてたのがいけなかったのか?

 いくら自分で考えても、答えが見つからなかった。


「お兄ちゃん、入るよ?」


「蒼衣、さっきの事なんだけど―――」


「あはは……やっぱー」


 


「本当はね?かな姉はお兄ちゃんに会いに来たんだけど……ほら、二人とも受験生じゃん?かな姉も忙しいでしょ?だから邪魔しちゃ悪いよって止めたんだけどね」


「……そういうことか」


「多分お兄ちゃんに会いたかっただけじゃないかなって」


 会う頻度がかなり減ったからか、寂しくなってただただ会いに来ただけだった。

 でもなんで怒ったり、酷く落ち込んだりしたんだ?


「お兄ちゃんと会って何があったかは知らないけど……かな姉の事は私の方で何とかするから、勉強頑張ってね」


「お、おう……まあ穏便にな?」


「大丈夫!どうしちゃったのかを聞くだけだから」


 蒼衣はそのまま部屋へと戻っていった。

 俺も勉強再開しようかとペンを握るが、どうしても先程の奏の事を考えてしまう。

 先程の行動と言い、これまでの奏は何か焦ってるようにも見えた。


「……やっぱ受験のせい、だろうな」


 受験が終わったら、奏と何処か遊びにでも行こう。

 夏休みや冬休みの時に行った所も含めて、いろんな所行っていろんな事してみたいな。

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