第89話
今日は新年初日。
植村家と東條家の皆で初詣の為に神社へ集まり、それぞれ新たな一年が始まる。
俺はこの先に待ち受ける大学受験という大きな壁を乗り越える為に。
「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますね」
「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします」
両親が新年の挨拶をしている中、俺達はというと着物に身を包んだ奏の姿に見惚れていた。
奏は少し恥ずかしそうに目を俯かせながら、時々俺をチラッと見てはまた逸らしての繰り返し。
「かな姉綺麗……」
という蒼衣も同じように着物を来てるが、対称的に綺麗と言うよりは可愛いだった。
「……そうだな、蒼衣とは随分違う雰囲気で似合ってるよ」
「!……に、似合っ……えへへ」
「ちょっと!お兄!それどういう意味なの?!」
膨れっ面で俺を睨んでは先程の言葉の通り、ちゃんと説明しろと目で訴えられる。
蒼衣はたまに突っかかることはあっても、余程の事じゃない限りは喧嘩はしない。
まあ家族の前で、ましてや大衆、奏の前でする程悪い訳じゃない。
「お前は綺麗じゃなくて可愛いって意味だ」
「えへへ、まあそういうことなら」
「良いのかよ……」
よく分からんが、機嫌が治って良かった。
「てる、そろそろ」
俺の服の袖を掴んでクイクイと引っ張り、互いの両親が既に出発していた。
俺達も遅れないように後についていく。
☆
本道に着いた俺達一行は二礼、小銭を賽銭箱に入れて二拍。
(志望校合格しますように、平和に暮らせますように)
頭の中で奏の顔が浮かぶ。
(奏とずっと一緒に居れて幸せになれますように……)
最後に一礼をして顔を上げると、奏と目が合った。
「……何祈ってたの?」
「内緒、言っちゃったら叶わないかもしれないじゃん?」
流石に奏と一緒に居れますようにと、幸せになれますようになんて言える訳がない。
自分の顔が徐々に熱くなっていくのが分かり、目を逸らす。
「……てる?」
「な、何?」
俺は何もなかったかのように無理矢理笑顔を作った。
「……顔真っ赤」
「うっ……!」
「ふふっ……ほらいこ?」
俺は手を引かれてそのまま本堂から離れ、流れるように歩く。
「ねえ」
「……どうした?」
「大学、一緒に受かろうね」
俺は大きく頷いてそれに応えられるように、奏の隣まで移動する。
奏と目が合い優しく可愛げに微笑むだけで、凄く愛おしくて、かなり幸せな気持ちになる。
「約束……破ったらめっ、だから」
まだまだ甘えたがりで寂しがり屋。
でもこの先、奏と一緒ならどんな困難も越えていけるような、そんな気がした。
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