第88話

 クリスマスパーティーを終えた俺は奏と体も重ね、その後も受験勉強に明け暮れていた。

 そんな感じで時が流れ、大晦日。

 お互いの自宅で年末年始を過ごすことに。


「あ、お兄ちゃん」


「どうした?掃除ならもう――」


「お蕎麦!もうすぐ出来るってお母さんが言ってた」


 もうそんな時間かと思い、壁に掛けてある時計を見て二つ返事でリビングへ。

 もう既に年末番組が始まっていて、いよいよ今年が終わろうとしている。


「はい、冷めない内にって」


「いつもありがとな蒼衣」


 俺は蒼衣の頭を撫でると嬉しそうに微笑む蒼衣の姿が、どうしても奏にしか見えなかった。

 今蕎麦食ってるのかな?それとも家族でもっと旨い飯でも食ってるのかな?ご両親に一杯甘えてるかな?

 考えれば考えるだけ、蒼衣の表情も変わる。


「お兄、寂しいの?」


「……かも、な」


「そっか、お兄ちゃん寂しいんだ」


 俺ということは、蒼衣も貴之に会えなくて寂しいってことか。


「一緒だね?にへへ」


「お前と一緒にすんな」


「あてっ……むう!何も叩くこと無いじゃん!」


 蒼衣とじゃれあっていたら、母さんに怒られた。





 ☆






 蕎麦も食べ終わり、俺は自室で今日の見直しをしていたら俺のスマホが震え出した。

 送り主はあの奏だ。


『外』


 中身はたったの一文字。

 俺は部屋の窓を開けると、イヴの時に買ったあの服装で待っていた。

 俺は上着を持って階段を降りながら羽織って、靴を履いていたら声をかけられた。


「あれお兄ちゃん?こんな時間にどこ行くの?」


「奏」


「え!?いいなぁ……!私も行きたい!」


 俺達はともかく、蒼衣はまだ中学生で見つかれば確実に補導される。

 だけど蒼衣は凄く行きたそうにしているからか、凄く断りづらい。


「あら輝彦、どこ行くの?」


「かな姉とどっか行くんだって」


「あら、そうなの?じゃあ気を付けてね?蒼衣はこっちにいらっしゃい」


「え?!ちょっとお母さん!なんで?!」


 そのままリビングに消えていき、またいい争いが始まった。

 俺は母さんに感謝しつつ、玄関を開ける。


「……てる!」


 俺に抱き着いては何度も俺の名前を呼ぶその姿は子供そのもので、でも格好は物凄く似合っている。


「どうしたんだよ急に……今日は家で過ごしてるんじゃないのか?」


「テレビ見てたら、急に会いたくなっちゃった」


「ったくもう……」


 ただただ俺に会いたかっただけか、可愛い奴め。


「御詣り、いこ?」


「おう、じゃあ行こうか」


 奏は俺の腕に絡み付き、近くの神社へ足を運ぶ。

 道中そこそこの人達が神社に向かって歩いていて、ちょっとだけ気分が上がった。


「うおっ……思ったより人が居るな」


「……っ」


「大丈夫、混んでるって訳じゃないから」


 奏はやっぱりまだこういう場所は好きじゃなさそうで、ちょっとだけ安心した。

 どこかの空いてる場所でひと息、腕に絡み付いてた奏は手を恋人繋ぎに変えて。


「もう今年も終わりかー……早かったな」


「……てると一緒になれた」


「だな……」


 五月に告白されてから、夏休みと文化祭にクリスマス。

 色々あったけど、一緒に過ごせる時はなるべく一緒に過ごしてきた。

 今年も後少しで終わり、そう考えると手に力が入る。


「来年も、再来年も、その先もずっと一緒に居ようね」


「あぁ」


 奏の大好きと声と共に新しい年が始まった。

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