第86話

 奏の本心を聞いて少しした後、流石に奏を独りにすることが出来ず一緒に家に入った。

 蒼衣には奏の家に居るからと連絡を入れて、リビングで一息ついていた。

 泣き疲れたのか、静かに眠っている。


「……て、る」


 俺の左肩に頭を乗せて、可愛らしい寝息と共に少し笑ったような表情を浮かべた。

 そんな奏を見ながら俺はさっきの事を思い出す。


「……寂しい、か」


 確かに奏のご両親は俺の親と違って、家を空けることが多くて授業参観でも来ない日が多かった。

 一度だけ俺は親に奏のご両親は何の仕事を聞いたことがあったことを思い出した。

 母親は医者で、父親は大手の社長さんとか言っていたのを思い出す。


「そりゃ寂しい……よな」


 父親は忙しくて家を空けることが多く、母親は帰る時間が早くても夜の二十一時以降で、奏にしたらもう眠っている時間だ。

 その間はずっと一人、子供の頃の俺は家政婦の一人ぐらい雇えば良いのになんて思っていた。


「そりゃ……甘えたくもなるか」


 俺は奏の傍を離れる気はない。たとえご両親から離れろと言われても、絶対に隣に居るつもりだ。

 なんて考えてると、俺のスマホが震え出した。


「貴之と一緒にそっちに行く、か……」


 まあ少ないよりは多い方がいいだろう。

 それに明日も一緒に居るんだったら、わざわざ帰る必要もない。


「んんっ……あれ、てりゅ……?」


「あ、起こしたか?さっき蒼衣がこっち来るって――!」


「?おはよ」


 うっすらとだが奏の谷間が見えて、慌てて目を逸らした。


「着替えてくる」


 奏はそのままの格好で、自分の部屋に向かって数分後にラフな格好に。

 暖房を点けて俺の隣に戻ってきた。

 目を合わせてもにへらと笑うだけで、さっきまで泣いてた面影がなかった。


「えへへ……♪」


「……蒼衣がこっち来るって、さっき連絡があった」


 少しだけ目を逸らしながら伝えると、奏はさっきのように頭を預けてた。


「ん……」


「多分、このまま泊まると思う」


「……ん」


 冷えきった部屋が暖房によって、少しずつ部屋が暖かくなり奏に手を引かれて俺達は炬燵へ移動。


「おこた……♪」


 奏は俺の上に乗り、嬉しそうに微笑む。

 ただ角度的に胸元がチラッと見えてしまい、俺は見ないように顔を逸らす。

 だけど、それを奏が許さなかった。


「むうっ、こっち!」


 顔を奏の方向へ無理矢理戻されて、目だけを逸らそうとしてもどうしても胸元に視線が向いてしまう。

 狙ってやってるのか、それとも素でやってるのか分からないせいで、俺の下半身が疼き出した。


「!」


 それは上に乗ってる奏にも伝わり、少し体を震わせた。


「……えっち」


「し、しょうがないだろ……男なんだから」


 数十分もの間、お互いに話さなくなって早く蒼衣が来るまで物凄く居心地が悪すぎた。

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