第85話
新たな衣装に身を包んだ奏と町を練り歩く。
なんだか奏が少しだけ追い付いてきた感じがして、満足な表情を浮かべながら、目が合う度に表情を崩していた。
こんなに可愛い女の子が俺の彼女だなんて、未だに信じられなくて、でもこんなに可愛い奏が俺の彼女で独り占め出来るのがなんとなく嬉しかった。
「……むぎゅーっ」
「どうした?凄い甘えん坊さんだな」
「……♪」
何人かの通行人とすれ違う度に、暖かい視線や羨ましそうな表情を浮かべるカップルと思わしき女性が奏のように甘え出した。
一部では逆に怒らせてしまって、拗ねたりしていた。
「いでで……っ!」
「……むう」
奏もその一人だったようで、苦笑いするしかなかった。
☆
その後は名所の一つであるイルミネーションを一緒に見て回り、楽しい想い出がまた一つ増えた。
奏もかなり満足していて、来年も行こうと思った。
「そろそろ帰るか」
「ん」
奏は腕に絡み付きながらにへらと表情を崩す。
「明日、お昼から行くつもりしてるけど……大丈夫そう?」
「大丈夫」
「なんかわりいな、今年は両親が共に仕事で忙しくて」
俺は申し訳なさそうに呟くと、奏は小さく横に振った。
「……一緒、だから」
奏は寂しそうな表情を見せながら、頭を預けて手に力が入っていた。
俺は毎年この顔を見るのが嫌で嫌で仕方なかった。
「今年は三人で過ごそう。
「うんっ」
今年は一生の想い出になるぐらいの楽しいクリスマスにしてやりたい。
お互い老人になっても、思い出話が出来るぐらいのを。
☆
気付けば奏の家に着き、別れの時間。
だけど、お互い何故か離れたがらなかった。
「家……着いた、な」
「……ん」
それもそのはず、このままバイバイは寂しいから。
「……っ」
奏は今にも泣き出しそうな表情を見せ、俺をじっとその潤んだ瞳で見つめた。
俺も離れたくなくて、手を繋いでいない方の手で奏の頬に触れた。
「……そんな顔するな、俺が帰れなくなるだろ?」
「や、だ……やだっ!」
俺の胸に飛び込んできて、俺はそれを優しく受け止める。
「なんで……独りにするの……!寂しいよぉ……!ひぐっ」
それは奏の本音とも受け取れる心の叫びだった。
「パパも……!ママも……!ううっ!!」
十八年間一緒に過ごしてきて、初めての奏の脆い部分を見た俺はなんて声をかけて上げれば良いんだろう?なんて思った。
それぐらいの号泣。悲痛な叫びだ。
「……てるも……
涙でボロボロになった顔と赤く晴れた目で上目遣いで訴えてくる。
そんな答え、とっくの昔に決まってるんだ……。
「……俺は何処にも行かない。奏の気が済むまでずっとずっと隣に居てやる!だから……っ!そんな顔、すんなよ……」
「……うっ!うわああああああああああ!!」
心のダムが崩壊したのと同時に、大声で声が枯れそうなぐらいの声量で奏は泣き続けた。
俺は優しく抱き締め、落ち着くまでひたすらに奏の頭を撫で続けた。
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