第83話 奏視点 イヴ

 今日は待ちに待ったイヴ、てるとデートに行けると思うと落ち着いていられない。

 今までは明日のクリスマスの日しか過ごしてなかったから、あの時に勇気を出して告白して良かったと思っている。

 ちょっと予定より早いけど、待ち合わせ場所に着いた。

 まだ来てないてるを待つ。


「……はぁっ、まだかな」


 すると突然後ろから誰かが抱き着いてきた。


「!」


「お待たせ」


 えっ……?!


「て、てる……」


 急に抱き着かれて驚いたけど、てるだと判明した途端、凄く落ち着いた自分が怖かった。

 流石に恥ずかしいよぉ……凄い見られてる。


「何?」


 腕を離そうとしたのが分かった私は、ぎゅっとその腕を離さないように掴む。


「……もう少し、このままで」


「仰せのままに」


 ふああ……っ、凄いキュンキュンする。

 こんな格好良いてるを独り占め出来るなんて、凄い幸せ。

 抱き締められて幸せな私は、そろそろデートに行きたいなあなんて考え出した。


「そろそろ、いこ?」


「もうちょっとだけ……」


 それはてるも同じだった。えへへ……なんか嬉しい。


「……よし、行くか」


 満足したてるの方向へ振り向くと、あまりにも格好良い姿に私は瞬きすることすら忘れて見惚れていた。

 てるもちょっと顔が赤いけど、あまりにも見つめてくるから慌てて目を逸らして、でも離れたくなくて服の袖を掴んだ。


「に、似合ってる……ぞ」


「……てるも似合って……る」


 ……そんなに見つめられちゃったら私、恥ずか死んじゃう。

 てるはそんなことお構いなしに、暖かい手で私の頬に触れ、優しく微笑んだ。

 これから起こることが全部夢じゃありませんように……。





 ☆






 手を繋いで街中を二人で歩くと、クリスマスイルミネーションが綺麗な洋服店があり、じっと見ていた。

 綺麗なお洋服……でも、背の小さい私じゃこんなのは似合わない。


「……一緒に見ていくか?」


「んん……っ」


 小さく頭を横に振る、ああいうのは蒼衣ちゃんや千花が着るようなもの。

 こんな子供っぽい見た目をしてる私には似合わない。


「もしかして、似合わないなんて思ってる?」


 顔に出てないと思ってたら、てるにバレてた。


「行こう、もしかしたらあるかもしれない」


「で、でも……っ」


「絶対に何着かは似合うのあるって」


 有無を言わずに店内に入っていくてる。

 私はてるに引っ張られるように、お店の中に入っていく。


「いらっしゃいませ」


 中へ入るともう入り口で見たのとは全然違っていて、てるの言う通り、私にも似合いそうな服がいっぱいあった。

 もう私はさっきの似合わない一点張りの思考なんてどっか行ってしまって、てるに可愛いって言って貰いたい一心でお洋服を見て回る。


「お客様、何かお探しでしょうか?」


「え、えと……その……」


 引っ込み思案な私はチラッとてるを見て、俯いてしまう。


「……ふふっ、素敵な彼氏さんですね?私にお任せください」


 全てを察してくれた店員さんは、何着か見繕ってくれて試着室で着替える。

 鏡の前に写し出されたのは、今までとは別の私。


「お客様、宜しいですか?」


「は、はい……っ」


 返事と共に試着室のカーテンが開いた。

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