第80話 奏視点 終業式

 今日は二学期の終業式。

 いつも通りの朝を迎えて、久し振りに制服に着替える。


「……よし」


 防寒着とマフラーを巻いて、一足早めに家を出て、てるの家の前に向かう。

 そろそろ出るだろうというタイミングを見計らって、壁に凭れながら手を温める。


「おはよう奏、今日もさみぃな……ささっといこっか」


「……おはよてる」


 私はてるの後ろに居ようとすると、てるは歩調をすぐ隣にまで合わせて、そっと手を握った。

 大きくてゴツゴツした男の子っぽいその手は、私を安心させる。


「手袋、してきたら良いのに」


「……子供扱いするからやだ」


 中学の頃、それでからかわれて以降マフラーしかしなくなったのもそれが原因。

 でも今は手を繋げるひとつのきっかけにもなってるから、私としてはもうどうだって良かった。


「だからあの時は悪かったって言ってるじゃん……もう」


「ふふっ……もう怒ってないよ」


「……ったくよ、さっさと行こう」


 やっぱり優しいな、てるは。





 ☆






 終業式も終わり、クラスに戻って先生が私達に向けていろんな言葉を投げ掛ける。

 こうやって過ごすのも後僅かだから。


「今日が終わったら、冬休みに入り年も変わりいよいよ受験日です。中にはもう終わってる人、これからの人、もしくは就職の人も居るでしょう」


 私はてるの方へ視線を向けると、黙って聞いていてその姿がちょっと格好良かった。

 その横顔も好きだなぁなんて思っていた。


「―――悔いの無いように精一杯持てるだけの力を出し切って下さい。これで先生の話は以上です」


 先生は教室を後にして、今日は解散。

 真っ直ぐ帰る者、友達と帰る者、想いを寄せる人と過ごす者に綺麗に別れる。

 私の席に千花と元会長が近付いた。


「今度会う時は卒業式、だね」


「そうだね、二人とも受験頑張ってね」


「……ん」


 私は無意識にてるに視線を向けると、元会長も一緒に向けていたらしくこう投げ掛けた。


「奏ちゃん、今幸せ?」


「んっ……」


「そっか」


 それが教室内での最期の会話となって、気付いたらてると二人だけに。

 てるが近付いてきて、私は抱き着く。


「……♪」


 顔を埋めて、左右に振る。


「どうした?」


「んーん……えへへ」


「今日はいつもより甘えん坊さんだな」


 だってこうしたかったんだもん……♪


「……一緒に帰ろ?」


「さっさと帰ってどうすんのさ?今日はこのままクリスマスの買い物して帰るんだろ?」


 そういえばそうだった。


「デート……♪」


「さては村瀬になんか吹き込まれたな?」


 私は凄く幸せな気分だけど、それ以上にてるに甘えていたかった。


「えへへ……」


「……ったく、分かったよ」


 まだ教室に残っていたクラスメイトと別れを告げ、学校を出ると千花達が校門の前で待っててくれた。

 千花に最後ぐらい一緒に帰ろうと言われたような気がした。


「おせえぞ輝!早く行こうぜ」


「ほら、早く行かないと置いてっちゃうよ~?」


「うっせえ!今そっち行くっての!」


 鞄を持っててるの後を追おうとしたら、足を引っ掻けてしまい転んでしまった。

 顔を上げるとてるが手を差し伸ばしていた。


「ほらよっと……怪我はなさそうだな」


 幼稚園の頃の記憶が甦る。あの頃からてるは変わってない。


「何ボーッとしてんだ?行くぞ?」


 私は小さく頷き、引っ張られながら千花達の元へ。

 高校生として最期の二学期が終わりを告げる。


「ねえ……てる」


「んー?」


「だーいすきっ」


 いつまでのてるの後ろに居るのはやめにしよう。

 いつか本当に貴方の隣に居ることがになれるまで。

 私は絶対にてると幸せになりたいと心に誓う。

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