第79話

 月日は流れて、二学期最終日。

 俺は体育館で校長の長い話を聞かされた後、教室に戻って担任に受験をする者に対して、忠告を受けた。

 その後はいつものように解散という形になった。


「輝、いよいよかー」


「そうだな」


「今度会う時は卒業式、か……なんか寂しいぜ」


 総司は冗談半分で言ってるように見えた。


「何言ってんだ総司、俺達はいつでも逢えるだろ?」


「それもそうだな!お前は奏ちゃんと仲良くしろよ~?」


「そういうお前も村瀬と幸せになれよ?」


 そのまま総司と別れ、奏の元に向かうと待ってたと言わんばかりに抱き着いてきた。

 俺はそっと背中まで腕を回して抱き締めると、奏は頬を赤く染めて恥ずかしそうに見上げた。


「……♪」


 と思ったら、胸に顔を埋めてすりすりと。


「どうした?」


「んーん……えへへ」


「今日はいつもより甘えん坊さんだな」


 普段ならこんな甘えてこないのに、今日はすごい甘えてくる。

 村瀬に何か言われたのか、それともただただこうしていたいだけなのか、もし前者ならありがた迷惑だが後者ならどういう風の吹きまわしなのだと、少し問い詰めたい。


「……一緒に帰ろ?」


 答えはどちらでもなく、奏は早く帰りたいようだ。


「さっさと帰ってどうすんのさ?今日はこのままクリスマスの買い物して帰るんだろ?」


 奏はこくんと頷き、頬を赤くしたまま微笑む。


「デート……♪」


 なるほど……買い物の事をデートと来たか。


「さては村瀬になんか吹き込まれたな?」


「えへへ……」


「……ったく、分かったよ」


 俺はそのままクラスメイト達に別れを告げ、学校を出ると総司達が校門の前で待っていた。

 まるで俺達が来るのを分かっていたかのように。


「おせえぞ輝!早く行こうぜ」


「ほら、早く行かないと置いてっちゃうよ~?」


「うっせえ!今そっち行くっての!」


 鞄を持って総司達の元へ向かおうとすると、奏が足を引っ掻けてしまい転んでしまう。

 俺はほぼ無意識に手を差し伸ばした。


「ほらよっと……怪我はなさそうだな。何ボーッとしてんだ?行くぞ?」


 奏は小さく頷き、俺に引っ張られる形で総司達の元へ走り出した。

 高校生として制服を着ての最期の日、これからどんな未来が俺達を待っているのか。

 それから奏とどんな毎日を送れるのか、楽しみだ。


「ねえ……てる」


「んー?」


「だーいすきっ」


 こんなに彼女がこの俺を愛してくれるように、俺も奏を愛していた。

 それは何者にも壊されないように、俺達でも壊せないように固く結ばれている。

 俺は絶対に奏と幸せになると心に誓った。

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