第74話

 過去問の束を鞄に詰め込み、早速家で勉強しようと思った矢先に懐かしい後輩と出会った。

 もう何ヵ月と顔を会わせてない。


「あれ先輩?どうして……?」


「久し振り、この間の模試の結果を聞きに来ただけだよ」


「ああ、そういう……そうじゃなくって!なんで出会っちゃうんだろ、もう……」


 五月の半ばの頃に出会ってそれ以来の高橋和花。

 今は俺と奏が交際していることは、学校中に知れ渡っている為に、その事についてはなにも聞いてこないだろう。


「体の方は大丈夫なんですか……?先輩が倒れたって聞いた時、皆心配してましたから」


「今のところ問題ないってさ、それにしても今年は色々あったなぁ……」


 今年入ってから奏と付き合うようになり、デートに喧嘩、文化祭はあまり憶えてないけど、楽しかった。

 奏の今まで知らなかったことが知れた事が一番だ。


「……先輩は」


 高橋が珍しく、弱々しい。いつもの明るさがない。


「先輩は今ですか?」


 か……。


「勿論」


「……っ、そう、です……か」


「どうした?高橋?」


 気付けば高橋の目から涙が溢れ、頬に流れていた。


「えっ……お、おい?!どうした!?」


「私だって……私だって、輝彦先輩の事出逢った時からずっと好きなのに……!先輩はズルいです……!」


 それは紛れもない、彼女の告白。


「ずるいって言われても……幼馴染だからとしか……」


「そうじゃないです……なんであんな可愛らしい彼女さんが居るのに、なんでそんな優しい顔出来るんですか……忘れたくても……忘れ、られない……じゃん」


 高橋は俺に抱き付いて、顔を埋めて静かに泣き出した。

 高橋の年下ながらも発達した胸の感触が、全身を襲う。


「は、離れろって……」


 俺は無理矢理引き剥がす、このまま帰ったら別の意味で確実に奏に怒られる。


「気持ちは嬉しい、でも付き合えないのはお前も分かってるだろ?」


「……はい」


「だったらさ、今度また出逢う時までに俺以外の好きな人作りなよ?別に付き合ってなくても良い。その時はみたいに


 彼女には野球部時代、かなりお世話になった。

 所属中は先輩らしいこと何一つ出来なかったけど、今ならそれが出来るかもしれない。


「先輩……はいっ」


 高橋は涙を拭って、小さく微笑んだ。





 ☆






 高橋は落ち着いた後は教室へと戻り、俺は昇降口に向かい靴を履き変える。

 校門に差し掛かったところで、見覚えのあるピンク色のマフラーを巻いた制服姿の奏が壁に凭れて、小さく息を吐きながら手を温めていた。


「なんでここに居るんだよ?」


「……逢いたかったから、えへへ」


 全く奏さんときたら……。


「……すんすん。他の女の匂いがする」


 俺は背中から冷や汗が出て、ちょっとだけ不機嫌になった奏と顔を合わせる。

 このままではまずい……。


「……上書き、する」


 奏は頬を膨らませながら、力強く抱き締めた。


「お、おう……」


 怒られるどころか急に甘えてきた事に驚きを隠せない俺は、そっと背中に腕を回した。


「……♪︎」


 不機嫌だった奏は腕を回したことで上機嫌となり、顔を埋めてすりすりと擦り付けた。

 その行動が可愛くて、思わず頬を緩めてしまう俺であった。

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