第72話 奏視点 料理

 ここ最近寒くなって、外に出るのが嫌になってくる。

 今日もてると一緒に私の家で勉強だ。


「これがこうなって……あー、そういうことか」


 隣に居る彼こと、てるは今日も参考書と向き合っている。

 その姿は格好良くて、ついついペンが止まってしまいじーっと見つめてしまう。

 その視線に気付いたのかこちらに視線を向けた。


「奏、どうした?顔になんかついてた?」


 私は小さく顔を横に振った。


「恰好……いい……な、って……」


 恥ずかしくて顔を俯かせようとしたけど、てるの手によってそれは阻止されてしまう。

 胸がきゅーっとなって、鼓動が次第に大きくなっていった。


「そういう奏も可愛いよ」


 はうぁっ!?


「でも今は勉強中だから、相手してやれなくてごめんね」


 と言って、頭を優しく撫でた。

 耳まで真っ赤になっているであろう私は、小さく横に振って思わず大切なぬいぐるみに顔を埋める。

 格好良いだけでなく優しい彼は、何故中学から今までモテるのか、少しだけ分かった気がする。





 ☆






 それから数時間経過、その間に落ち着いた私は再度勉強に取り掛かっていて、部屋の扉の向こう側から誰かの声が聞こえた。


「奏ー、輝彦君。もうすぐお昼だけど大丈夫そう?」


 お母さんの声で二人は顔を上げ、壁に掛けてある時計を見ると既に十二の方向に針が集まっていて、もうそんな時間なんだと思った。


「……うん」


「色々とすいません、お昼頂きます」


「分かったわ。ふふっ、早く降りてらっしゃい」


 含みのある笑い声に頭を傾げる私、また変なこと考えてるのかな……。


「そろそろ行こうか、奏のも最高だけど……おばさんの手料理は一番だからな」


「分かる気がする……」


 料理の事は流石にお母さんには敵わない。

 てるの家族も絶賛する程の美味しさだから、改めてお母さんの凄さを実感する。


「つ、作るって……言ったら、食べ…る?」


 私は頬を少しだけ赤く染めて、うるさい鼓動を抑えながら思い切って聞いてみた。


「……奏の手料理は毎日でも食べたい、かな……なんて」


 何とも言えない感情が全身を襲い、幸せな気持ちと恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになった。

 毎日……駄目だ。考えただけで凄く幸せな気分になっちゃう。


「そ、そろそろ行かないとな……!お、おばさん怒らせちゃうな……!」


「うん……っ」


 気付けばてるも同じように顔を赤くして、顔を逸らしてた。

 同じ気持ちだったのが嬉しくて思わず、微笑む私。


「……プロポーズ?」


「えっ?!い、いや……ち、ちがっ……わない、けど……でも、そうじゃない!」


「……いつまでも、一緒……だよ?」


 恥ずかしいけど、でも気持ちは伝えたい。

 学園祭の時みたいに喧嘩だったり、時には嫌なことも起こるだろう。


「と、とにかくっ!早く行こう!」


「んっ」


 とは違って、今はある程度なら気持ちは伝えられるようにはなった。

 それに今は応援してくれる友達も、親も居る。もう自分わたしじゃない。

 いつかちゃんと、自分の気持ちをしっかりと伝えられるようになれたらいいな。

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