第71話

 あれから時は流れて、十二月。

 俺達三年は全ての授業が終わった為、単位が足りてない一部生徒を除いて自由登校期間に入った。

 奏は勿論、総司も自由登校組で、俺もなんとか自由登校を掴み取った。


 対する村瀬はというと……。


「……なんで私だけなのよ!東條の裏切り者!」


「んなこと知るかよ!ちゃんと勉強してねえのが悪いんだろうが!」


「うぐっ……」


 そもそも、何故俺はそちら側に居なければならんのだ。

 それに奏が居る以上、俺が赤点なんて取れっこない。


「だから言ったろうが……教えてやるって」


「まあともかく……今回も総司に見てもらって、さっさと単位貰ってこい」


「……はぁい」


 はぁ……なんでこいつ、この高校に入れたんだろうな。

 なんて考えていると後ろから物凄い視線を感じた。


「……むう」


 俺の幼馴染兼彼女の奏が、頬を膨らませながら不機嫌顔で睨み付けていた。

 その姿はまるで子供のように可愛く、彼女自身は怒ってる筈なのに、それが周りから可愛いと言われる要因でもある。


「……また千花と」


 俺の近くまで来て、更に不機嫌に。そんな奏も可愛い。

 俺は奏の膨らんだ頬を両手で押すと、奏は驚いて目を見開く。


「ははっ、本当もう可愛いなあ奏は」


「!」


 今度はかあっと顔が赤くなって顔を俯かせようとしたが、顔が固定されて視線だけが下を向いた状態に。

 最近奏はというと俺が可愛いと呟くだけで、顔を赤くしたりいつも以上に照れたりする。


「……奏?最近ちょっとおかしいよ?」


「わ、わかんない……うぅっ」


 急にしおらしくなったというべきか、普段より可愛く見えてしまう。

 俺自身が無意識に何かそうさせてしまったのだろうか?


「……時間も良いし、そろそろ帰ろっか?」


 ただ今はその件に触れるのはやめておこう。

 奏は小さく頷き、総司達に帰ることを話してその場を後にした。





 ☆





 鞄を抱えて外へ出ると、さっきより冷えきっていた。

 俺は防寒着等はまだ出してはいないが、奏はピンク色のマフラーを首元に巻いていた。


「……最近寒いな」


「ね、おこた入りたい……」


 こたつかー、うちもそろそろ出すべきなのかな。

 なんて考えてると、奏がそっと近付いて俺の腕に絡み付いてきた。


「さっさと帰るか、受験に向けてちょっとでも勉強しなきゃいけねえし」


「んっ」


 今は十二月、いよいよ今年が終わってしまう。

 イベントがあるとすればクリスマスと大晦日、後ひとつ何かあったっけか……。


「……蒼衣ちゃんの誕生日」


「お、おう……顔に出てたか?」


 急にそんなこと言われたから思わず聞き返してしまった。


「んん……っ、何にしようかなって」


 そういえば奏は毎年蒼衣の誕生日の日はなんか張り切ってたっけ。

 例年通りなら誕生日ケーキを作るんだろうけど、今年の場合はそうは言ってられないはず。

 俺の誕生日はかなり前で、奏も既に終わっている。


「普通にケーキで良いんじゃないか?」


「今年はダメ……てると同じとこ行くの」


 ごもっともな意見だが、楽しみにしている蒼衣には少しだけ申し訳なく思うのであった。

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