第69話

 数日前。

 見慣れない白い天井、定期的に鳴る電子音、手には微かな温もりがあった。


「お兄ちゃん……!」


「輝彦……!良かった……先生呼んでくるわ」


「お兄ちゃん、分かる?!」


 母さんと蒼衣が居て、母さんは先生を呼びに部屋を出て行った。


「……それぐらい、分かるよ。


 蒼衣は涙を流して、俺に抱き着いてきた。

 だけど俺は、それよりも頭が割れるような感覚がして凄く痛い。


「お兄……ちゃん!」


「うぐっ……よしよし、泣くなって」


「だって…!」


 蒼衣が言いたいことは分かる。

 でもそれ以前にこの頭痛をどうにかして欲しい。


「はいはい妹さん、離れてね。先生、準備出来ました。―――」


 俺はその後、精密検査を受けて特に異常はなく、現状は頭痛が治まるまでの間の数日入院することになった。





 ☆






 そして今日、お見舞いで総司を始めとするクラスメイトと再会。


「東條!お前本当に大丈夫か?」


「倒れたって聞いた時、本当に心配したよ……」


 皆それぞれ思いは違えど、かなり心配してくれていて嬉しかった。

 クラスメイトの皆は俺が無事だったことを確認した後、総司といいんちょ以外の皆はバイトや部活に向かった。


「東條君、元気そうで良かった」


「いいんちょも心配かけたね」


「ううん、本当に無事で良かった」


 そんな時、部屋の扉が開く音が響いた。


「お、やっときたかー。おせえぞー」


「しょうがないでしょ、奏がこんなだからね」


 訪問者は村瀬と……奏だった。


「ははっ、奏は相変わらずだなぁ」


 俺の声を久し振りに聴いた奏の顔は驚きを隠せずに居た。


「よっ。ただいま、奏」


 奏は涙を流しながら、俺の胸に飛び込んだ。

 蒼衣曰く倒れた後の数日、俺は記憶を失っていたらしい。


「……全部思い出したよ。ホントごめんな」


「良かっ……た……うぅ……っ!」


 と聞いた時の衝撃は、奏には相当苦痛だったろうに……。


、てる……!」


 奏の顔は涙でぐちゃぐちゃで、それはもう酷い顔なのにそれでも微笑んでいた。


、奏」


 だから俺は、精一杯の笑顔で応えた。






 ☆






 それから暫くして……。


「奏、すっごい甘えてるね」


 奏は総司やいいんちょ、村瀬が居るにも関わらず、俺の傍から離れずに居て、少しだけ恥ずかしくて顔が熱かった。


「……だな、嬉しいんだけど。ちょっと恥ずかしいな……」


「ホントだ、東條の顔真っ赤じゃん」


「う、うるさいな……っ!」


 俺は慌てて顔を逸らすが、抱き着いていた奏が上目遣いで、俺を見て俺の心拍数が跳ね上がる。

 ただこのまま村瀬にやられっぱなしなのは、俺のプライドが許さなかった。


「っつーか村瀬!最近総司とはどうなんだよ!」


「は、はぁっ?!か、関係ないでしょ!?」


 総司の名前を出すだけで、村瀬の顔がみるみるうちに赤くなっていくのが分かった。


「この後デートの約束してるぞ、な?千花」


「う、うん……。っていうか余計なこと言わなくていい……」


 こんなしおらしい村瀬は初めてだ。

 だけど奏は少し放置されたせいか、目を伏せて寂しそうな表情を浮かべ、胸が締め付けられた。

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