第68話 奏視点 小さな変化2
てるが突然暴れ出してから数日が経ち、私は病室に行けなかった。
また突然暴れ出したら、怖いから。
「……はぁ」
今は近くに居ない方が良いと思って、最近は真っすぐ帰ることが多かった。
「かーなーで、なんて顔してるの?」
「うえ……っ、いひゃい…」
千花は私の頬を両手で掴んで、引っ張ったり回したりして遊ばれる。
「は、はにゃして……」
私は涙目になりながら抵抗するけど、逆に面白がられて無駄だった。
だから私は仕返しと言わんばかりに千花の頬を同じように引っ張った。
「うひゃっ!ひょっとかにゃでいはいってば!」
「……ひゃあなにゃして、いひゃい」
二人は何かが可笑しくて、笑い合った。
「東條はどう?」
「……わかんない」
「そか、じゃあ今どうなのか分かんないのか」
正直会いたい気持ちはあるけど、あの時の恐怖心のせいでなかなか前に進めずにいた。
「じゃあ会いにいこっか」
「えっ……で、でも」
「良いから!ほら、行くよ!」
千花は私の気持ちも知らずに、私はてるが居る病院に無理矢理連れ出された。
☆
無理矢理連れ出された私は、自然と病室前で足が止まってしまう。
「ほら、何してんの?」
「で、でも……うぅ……っ」
怖くて足が竦んでいると、病室の中から楽しそうな話声が聞こえた。
その中にてるの声は聞こえなかったけど、それでも羨ましかった。
「ほーら、行こうよ?東條と話したくないの?」
「……あっ」
「もう!ほら行くよ!」
我慢出来なかったのか、私の手を引いててるの病室に入った。
「お、やっときたかー。おせえぞー」
「しょうがないでしょ、奏がこんなだからね」
「ははっ、奏は相変わらずだなぁ」
えっ……今の声って……?
「よっ。ただいま、奏」
私はたまらず、てるの胸に飛びついた。
「……全部思い出したよ。ホントごめんな」
「良か……っ……た……うぅ……っ!」
私は我慢出来ず、てるの胸の中で涙を流した。
思い出してくれて良かった……本当に良かった……。
「おかえり、てる……!」
私は涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら、それでもてるは優しく微笑んだ。
「ただいま、奏」
その顔は今まで見た中で、一番輝いていて、格好良くて、ときめいていた。
☆
少し時間が経った後、私は千花達がいるのにも関わらず、抱き着いたりしながら彼に甘えていた。
もうこの手を離したくなかったから。
「奏、すっごい甘えてるね」
「……だな、嬉しいんだけどちょっと恥ずかしいな」
「ホントだ、東條の顔真っ赤じゃん」
「う、うるさいな……っ!」
千花に言われて顔を上げると、本当に顔が赤くなっていた。
可愛い……。
「っつーか村瀬!最近総司とはどうなんだよ!」
「は、はぁっ?!か、関係ないでしょ!?」
むう……。私を無視しないでよ、もう。
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