第67話 奏視点 小さな変化1

 てるが目覚めてから、私はというと……。


「てる」


「こんにちは、今日も来たんだね」


「ん」


 ほぼ毎日のように病室に訪れていた。

 てるは私の事を何一つ覚えてないけど、それでもこうして元気で居てくれることが何より嬉しかった。


「……今日は何しに?」


「これ」


 鞄の中から取り出したのは、気付いた時から今までの私とてるの思い出の詰まったアルバム。

 持ってきた理由は、思い出して欲しいから。


「なんですかこれは……?」


「てるとの思い出」


 好きだと気付いてからずっと私は肌身離さず、写真を撮れるところは撮っていた。


「一緒に、見よ……?」


 ダメ元で勇気を出して聞いてみたら、顔を逸らしたけど小さく頷いてくれた。

 それが嬉しかった。


「ちょっ……!奏さ――」


 またその呼び方……。


「……奏って、呼んで」


 付き合ってるのに、幼馴染なのに、そんな他人みたいなこと言わないで……。

 急に胸が苦しくなって、手に力が入る。


「なんとか……言って」


「えっと……ごめんなさい」


 やっぱり寂しい、そう思った時。


「ふぇ……っ」


 急にてるが私を抱き締めてきた。

 顔が徐々に熱くなって、胸が暖かった。


「……こうした方が良いかなって、それに」


 それに、何だろう?


「なんとなく、懐かしい感じがしたんです」


「!」


 もしかして、思い出してくれた……?


「だって……泣いてたから」


 てるは私の目に溜まった涙をそっと拭って、優しく微笑んだ。


「きっかけになるか分からないけど……やっぱりちゃんと思い出したい、です」


「てる……」


 思わず頬が緩み、私は心から嬉しくて微笑んだ。






 ☆






 幼少期から小学生の間の写真を見ていて、聞かれたら答えるぐらいの会話をしてたけど、進展はなかった。

 次は小学校卒業して中学に入学。

 小学生の頃よりは写真の枚数は極端に減るけど、それでもお父さん達は撮れるところは撮ってくれた。


「凄い似合ってます、可愛いです」


「……そ、そう?」


 あの時ははっきりと言ってくれなかったけど、今こうしていって貰うのは少し反則。


「はい、なんていうか……蒼衣みたいで」


 その発言が少し頭にきて、むすーっと睨む。


「……ちっちゃいから?」


「あ、いや……!ち、違います!凄く女の子らしくて可愛いなぁ……って」


 てるの視線が徐々に下がって、私の胸辺りで止まりてるは苦笑い。


「……むう」


 ちょっと小さいけどちゃんと、あるもん。


「えと……ごめんなさい」


 謝られるとそれはそれでなんか嫌。


「むう……っ」


 しばらく睨んでいると、てるはぼーっとしながら私の顔をジーッと見つめる。


「……なんか、懐かしいな」


「今、なんて……?」


 てるは私に話し掛けられた事で、さっきよりは印象が違う風に見えた。


「懐かしい……?何が……っああっ!あ、頭が……い、痛い……っ!」


 てるは無意識にナースコールボタンを押して、突然暴れ出した。

 その数分後、看護師さんらによって抑え込まれ、先生によって落ち着かせることが出来た。


 その時の私はというと、何がなんだか分からなくて頭の中が真っ白になって、胸が苦しかった。

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