第66話
誰かが呼んでる、その誰かに
一体誰なんだろう?全く思い出せない。
でも、何か大切なようなものだったような気がした。
「うっ……あっ……」
目覚めるとそこは見知らぬ天井で、同じような音が聞こえる機械が同じ感覚で聴こえてくる。
「お兄ちゃん……!!」
周りを見渡すと自分を兄と呼ぶ小さな女の子と、もう一人の女の子が泣いていた。
その子達は背が殆ど変わらない、徐々にだけど意識がはっきりしてくる。
「お兄ちゃん、良かったぁ……無事で」
「……あなたは、誰ですか?」
「えっ……」
兄と呼ぶ女の子はまるで何を言っているのか分からない顔をしていて、もう一人の女の子は信じられないといった顔をしていた。
そんな時、誰かが入ってくる音が聞こえて、視線をそちらに移すと白衣の服を着た男の人達が近づいてきた。
「君……自分の事、分かるかい?」
自分のこと……?言ってる意味がよく分からない。
「……そうか、ここに居るのは君の妹さんと彼女さん。そしてここは病院。君は数日の間、この部屋で眠っていたんだ」
どうやら、ここは病院というところで数日の間眠っていたらしい。
「あなたは……?」
「僕かい?ここの医者さん、って言っても今の君には分からないか」
☆
白衣の服を着た医者さんは検査というのをして、部屋を後にした。
「どっちが妹で、どっちが彼女なんですか?」
「私が妹だよ」
先ほどまで兄と呼んでいた子が妹で、じーっと見つめてくる子が彼女らしい。
「あーっと……私は蒼衣で隣がかな姉……じゃなくて、奏ちゃん。さっき先生が言ったようにお兄ちゃんの幼馴染で彼女なんだよ?」
「蒼衣……奏、さん……」
名前を呼ぶと微かに表情が明るくなったように見えたけど、一瞬で元に戻った。
何か悪い事でもしたのだろうか?
「もうお兄ちゃん!かな姉にさんはいらないよ?」
何故か怒られてしまった。
「ごめん、なさい……。僕、何も覚えてなくて……」
「え?てことは、自分の名前も?」
「……はい」
必死に思い出そうとするが、記憶の欠片みたいなものが出てこなかった。
「やっぱり、お父さん達が言ってたことって本当だったんだ……」
「うっ……て、る……うぅ……っ!」
奏さんは泣きながら僕に抱き着いて、小さな声で僕の名前を呼びながら良かったと呟いていた。
僕は内心焦っていたけど、その分こんな可愛い子に甘えられ、顔が熱くなっていきドクドクと音がうるさかった。
「ぐす……っ、ねえ……頭撫でて?」
「こ、こう……ですか?」
「んっ……えへへ」
その姿に僕は何かが引っ掛かったけど、それが何なのかがよく分からなかった。
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